ワールドレポート ~世界のダンス最前線~

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佐々木 三重子 text by Mieko Sasaki 
[2012.04.10]

マイヨーの斬新な発想と大胆な振付を再確認した『シンデレラ』『シェヘラザード』他

Les Ballets de Monte- Carlo モナコ公国モンテカルロ・バレエ団
Program A: Jean-Christophe Maillot “Scheherazade,” “Daphnis et Chloe” etc Program B: Jean-Christophe Maillot “Cinderella”
Aプロ:ジャン=クリストフ・マイヨー『シェエラザード』『ダフニスとクロエ』ほか
Bプロ:ジャン=クリストフ・マイヨー『シンデレラ』

振付の鬼才、ジャン=クリストフ・マイヨー率いるモナコ公国モンテカルロ・バレエ団が、3年振りに来日した。バレエ・リュスの本拠地となったモンテカルロに1985年に設立されたバレエ団で、1993年にマイヨーが芸術監督に迎えられてから、バレエ・リュスの革新的な創造精神を継承するバレエ団として評価を確立した。6度目の来演となった今回は、バレエ・リュス創設100年を記念して、マイヨーがバレエ・リュスゆかりの作品を独自の視点で創り直した『シェエラザード』(2009年初演)と『ダフニスとクロエ』(2010年)をメインに据えたAプロと、代表作『シンデレラ』(1999年)によるBプロを上演した。

tokyo1204b01.jpg photo:Kiyonori Hasegawa

Aプロ:『シェエラザード』『ダフニスとクロエ』『アルトロ・カント1』
マイヨーは原振付家フォーキンへのオマージュとして『シェエラザード』を創作したという。原作は、リムスキー=コルサコフの音楽にのせ、スルタンの後宮を舞台に、シャリアール王の愛妾ゾベイダと金の奴隷との官能的な愛の交歓の果ての破滅を描いた作品だが、マイヨー版ではゾベイダの心を試そうとするシャリアール王の計略が明確に描かれていないため、物語としてのドラマ性は希薄である。振付家の狙いは、閉ざされた世界で自由を奪われているハーレムの女たちと奴隷たちの抑えきれない感情を汲み取り、音楽から受けるイメージのままダンスとして表出することにあるようで、その意味では成功している。

ゾベイダ役の小池ミモザが素晴らしかった。背を反らせて胸を突き出し、くびれた胴から腰にかけての曲線美を誇張し、布から透けて見える長い脚をしなやかに曲げ伸ばし、妖艶な魅力を振りまいて奴隷たちをかしずかせ、彼らにリフトされて宙を漂うように舞った。金の奴隷は二人で、アレクシスとジェオルジェのオリヴェイラ兄弟が敏捷な身体性を発揮した。ハーレムの女たちと奴隷たちも、激しく奔放な群舞を繰り広げた。死を覚悟したゾベイダが奴隷の一人と背合わせで串刺しにされる最期が衝撃を与えた。ジェローム・カプランによるきらびやかなハーレム風の衣裳がエキゾティックな趣を醸していた。

ラヴェルの音楽による『ダフニスとクロエ』では、マイヨーの独創性がより強く見て取れた。フォーキンのバレエの元であるロンゴスの小説のエキスを抽出するように、マイヨーは、性に目覚めながら愛し合い方を知らない若い男女が、成熟した男女から手ほどきを受けて愛を成就するまでを舞台化した。若い男女を演じたアンハラ・バルステロスとジェローン・ヴェルブルジャンは共に小柄で、恥じらいのある初々しい演技をみせ、成熟した男女を演じたベルニス・コピエテルスとガエタン・モルロッティは共に大柄で、ベテランの味と風格を漂わせていた。絶妙の組み合わせだろう。若いペアは、相手の体に触れたいのに怯えて触れる直前で止め、磁石のプラスとマイナスが反発しあうように、絡み合いそうで絡めないもどかしさを巧みに伝えた。成熟した男女は身振りに官能を匂いたたせ、若い男女を引き離してパートナーを交換したり、男同士や女同士で組んだりして、若い男女を翻弄し、時にはいたぶるように手荒く扱い、若い男女の心と体を燃え上がらせていった。そして最後、若い男女はパネルの陰で抱き合うのである。とりわけ、ヴェルブルジャンを叱咤するように鼓舞するコピエテルスのやりようが見事だった。

若い女の服は何にも染まっていないことを象徴するような白っぽいミニワンピースで、成熟した女は深みのある赤のロングドレスと、衣裳でも両者の違いを暗示していた(衣裳はジェローム・カプラン)。何より衝撃的だったのは、パネルを用いたエルネスト・ピニョン=エルネストの装置とドローイングだ。若い男女が心に抱いた感情や欲望を視覚化するように、背景のパネルに男女の生々しい肉体のデッサン画が現れては消えていく。それがステージで展開される若い男女のダンスと上手くシンクロしているのには驚かされた。ここにも、バレエをトータルアートとしてとらえているマイヨーの姿勢がうかがえた。

『アルトロ・カント1』(2006年)は、前回のツアーで上演された作品。ろうそくのような温かな明かりの下、モンテヴェルディの声楽入りの宗教曲が厳かに響く中、スリムなパンツ姿の男女とパフキュロットの男女が、デュオやトリオ、アンサンブルなど、様々な組み合わせでダンスを織りなしていく抽象的な作品で、教会での儀式を彷彿させた。衣裳はカール・ラガーフェルドで、パンツは男性性、キュロットスカートは女性性の象徴という。けれどパンツ姿の女性もいれば、スカート姿の男性もいるので、両性具有性を示すものだろうが、むしろ性というものを超越しているように思われた。身体の各部をコントロールも巧みに操って次々に展開されるダンスからは、緻密な構成が受け取れた。中でも、ベルニス・コピエテルスが男性たちにリフトされ、空間を浮遊するように運ばれるシーンには息を呑む美しさがあった。また、ダンスに応じて繊細に変化する照明はドミニク・ドゥリヨによるもので、神秘的な雰囲気を醸し出し、ダンスを秘儀のように昇華してもみせた。官能的な舞台が続いた後の精神性の高い作品だけに、心が洗われる思いがした。
(2012年3月6日 東京文化会館)

tokyo1204b02.jpg photo:Kiyonori Hasegawa tokyo1204b03.jpg photo:Kiyonori Hasegawa

Bプロ:『シンデレラ』
『シンデレラ』は日本でも何度か上演されているお馴染みの作品。マイヨーはこれを単なる童話として描かず、シンデレラの亡き母を仙女として登場させ、シンデレラと王子の物語にシンデレラの父と母の愛の物語を交錯させて、真実の愛とは何かを問い掛けている。仙女はシンデレラと王子を結び付けるだけでなく、夫を真実の愛に目覚めさせもするのだ。シンデレラの父は再婚したものの幸せではなく、継母と義姉たちにいじめられるシンデレラを守り切れないひ弱な存在だったが、仙女を通じて本当の愛に気付かされると、再婚した妻を拒否する強さを持つまでになった。シンデレラが母の形見の白いドレスを手に、父と母が流麗に踊る様を寂しく回想するプロローグと、亡き妻とワルツを踊った父が、その亡きがらのような白いドレスを手に茫然と座る後方で、シンデレラと王子が幸せを象徴するように階段を上っていくエピローグとの対比は鮮やか。悲哀のこもったエンディングで、童話の世界を現実の世界に引き寄せてみせたのだろう。

tokyo1204b06.jpg photo:Kiyonori Hasegawa

マイヨー版のもう一つの特色は、シンデレラを裸足にしたこと。舞踏会には輝くスパンコールで素足を飾って出掛け、その光る脚をシンデレラの証にした。そのためトウシューズならではの妙技は見られないが、第1幕ではシンデレラの素直さや汚れなさが表わされ、舞踏会では王子との瑞々しく、躍動感あふれるパ・ド・ドゥが際立つことになった。女性の衣裳も目を引いた。オーソドックスなデザインのドレスはシンデレラと亡き母だけで、継母や義姉たちの衣裳は奇抜というよりはグロテスク。衣裳で人となりを伝えようとしたのだろう。さらに、舞踏会に出掛ける衣裳合わせのシーンで、彼女たちが着飾った姿を見る鏡が歪んでいたのは、その心を映すようで辛辣な皮肉にみえた。

シンデレラ役はノエラニ・パンタスティコ。素直で可憐なシンデレラという役作りで、いじめられてもへこたれず、父をいたわる芯の強さを見せた。王子役のアシエ・ウリアゼレカは満たされない心を抱えた現代の若者風で、シンデレラと出会ったことで精神的に成長していった。舞踏会での二人は爽やかに溌剌と踊り、心の高揚を流麗なステップで表現していた。仙女役は小池ミモザ。夫とのパ・ド・ドゥは情感豊かで良かったが、仙女としての演技は艶やかというか生々しすぎて、きつい感じがした。クリス・ローラントは気が弱い父親役を好演。ガエラ・リウは妖艶な継母として立ちはだかり、衣裳のせいもあって毒々しいエロティシズムを放っていた。脇役だが、儀典長を務めたガエタン・モルロッティとジェローム・マルシャンが、非常に切れ味の鋭いステップで目を奪った。なお、装置は巨大なパネルを組み合わせたもので、シーンに応じて配置を変えるといった簡素なもの。照明を工夫し、時には映像を用いるなどして巧みに場面を演出していた。ちなみに、装置はエルネスト・ピニョン=エルネスト、照明はドミニク・ドゥリヨ、衣裳はジェローム・カプラン。マイヨーの良き理解者、協力者である。
(2012年3月10日昼 東京文化会館)

tokyo1204b04.jpg photo:Kiyonori Hasegawa tokyo1204b05.jpg photo:Kiyonori Hasegawa