ワールドレポート ~世界のダンス最前線~

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[2012.04.10]
優れたダンスの舞台を観たとき、その場で衝撃や感銘を受けることがあるのは当然だが、さほど大きなインパクトを受けなくても、後日、時間が経過してから、じわりと心の奥底にまで響いてくる舞台がある。最近では、シディ・ラルビ・シェルカウイの『テ ヅカ』がそうだった。この作品もまた、リハーサルの初めに<東日本大震災>に遭遇している。
しかしだからといって深刻な表現はなく、森山未来ほかの様々な国のダンサーや書道家、少林寺の武僧などのパフォーマーたちが自在に飛び交うように奔放に踊る、解放感を感じさせる舞台だった。その中に五木の子守歌を流して踊るシーンがあった。舞台を観ている時は日本の民謡で鮮やかに踊ったことに感心しただけだった。ところがある時、突然「おどんがうちんちゅうて(死んで) だいが(誰が)泣いてくりゅか 裏の松山 せみが鳴く」という五木の子守歌の歌詞が、あのメロディとともに脳裡に浮かび、思わず知らず口ずさんだ。同時に『テ ヅカ』あのシーンは、震災で亡くなった名も無き人々への、グローバルに人間へのメッセージを発しつづけた漫画家手塚治虫への、その手塚の魂に寄り添っていたシェルカウイ自身の少年時代へのレクイエムだったことを感じた。
そして、まるで伏流水が地上に吹き出すように、ある時、甦ってくる舞台の感動と言うものがあることを体験した。

吉田都とテューズリーが踊ったスターダンサーズ・バレエ団のトリプルビル

George Balanchine "Western Symphony" "Walpurgisnochit Ballet"
William Forsythe "Steptext"
ジョージ・バランシン振付『ウエスタン・シンフォニー』『ワルプルギスの夜』
ウィリアム・フォーサイス振付『ステップテクスト』
スターダンサーズ・バレエ団

今年の「都民芸術フェスティバル」では、スターダンサーズ・バレエ団がバランシンとフォーサイスの作品によるトリプルビルを上演。2010年に輝かしい経歴を重ねた英国ロイヤル・バレ団を退団し、フリーランスのダンサーとして日本の舞台を中心に踊る吉田都。そしてかつては英国ロイヤル・バレエ団でプリンシパルとして活躍したキャリアもあるロバート・テューズリーをゲストに迎えた公演となった。

まずはバランシンの『ウエスタンシンフォニー』。背景に西部劇に登場するような草原に建つ一軒の小屋がシルエットで浮かぶ。背後には大草原と広大無辺の大空がどこまでも広がっている。音楽はスーザの曲を編曲した『スターズ・アンド・ストライプス』やミュージカル作品などで知られるハーシー・ケイ。『レッド・リヴァー・ヴァリィ』や『グッドナイト・レディーズ』などの著名なアメリカのフォークソングのメロデイが挿入されている。
色鮮やかな衣装を着けた女性ダンサーが登場して、ギャロップのステップを踏みながらスクウェア・ダンス風のダンスをくりひろげる。構成はグラン・パ・ド・ドゥを基本にしたもので、これだけでもう心がウキウキして楽しい気分を満喫させてくれる。第二楽章は月夜のデートをスローテンポて楽しむペアを中心に踊られる。そして最後の第四楽章は、色とりどりの可愛らしい衣装のペアたちによるフィナーレだった。全体にフォーメーションはフォークダンスの構成を上手く使って作られている。人間が草原に集って踊る、というプリミティブな姿がごく自然に舞台上に現れる。様々なステップを華やかに組み合わせてクラシック・バレエと大西部のイメージの素敵な融合を体感させてくれた、バランシンにしか創れないと思わせる見事なダンスだった。

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フォーサイスの『ステップテクスト』はもう何回も上演されてきたが、何回みても鮮烈な印象をうけるコンテンポラリー・ダンスだ。
客席のライトをつけたまま、リハーサル室でダンサーが踊っている。舞台奥に単純な図形が描かれた背景板がポツンと置かれただけの舞台。赤いレオタードの女性ダンサーと3人の男性ダンサーが踊る。音楽はバッハの「シャコンヌ」。ダンサーたちの出入りが繰り返されて、赤い女性ダンサーを巡って何かが起きるかのようだが、そうしたナラティヴな展開はみせない。時折、客電が明るくなったり、「シャコンヌ」が突然、断絶して断片的に流されたり、すべての照明がおちて暗黒の空間となったり、通常とは異なった断絶が連続した世界が現れ、ダンサーたちの日常的な現実と混交して緊迫した空間が構成されている。大きなステップと独特上体のひねり、今ではダンスのトレンドとして流行して目が慣れてしまったかも知れないが、クラシック・バレエの「パ」を再構築して、新しいダンスを創る方法をあみ出し、21世紀のダンスの隆盛を喚起させるムーヴメントである。

バランシンの『ワルプルギスの夜』は吉田都とロバート・テューズリーがプリンシパルを踊った。薄い紫色の衣装のコール・ドと白い衣装のプリンシパルのペアが入れ替わり、クラシカルなじつに軽やかなステップを踊る。明るく幸せなダンスが続くうちに、いつの間にかダンサー全員が髪を振り乱していた、というシンプルながら意外性をはらんだ展開。音楽はシャルル・グノーのオペラ『ファウスト』から使われているが、独立した作品として上演されている。全体に華やかな雰囲気があり、『ステップテクスト』のコンテンポラリーな強化されたステップとはじつに対照的なムーヴメントだった。吉田都の軽妙で細やかなソロヴァリエーションは、じつに絶妙だった。このステップを見ただけ、観客は心を癒やされ劇場に足を運んだ価値を感じたに違いない。
(2012年3月4日 ゆうぽうとホール)

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