ワールドレポート ~世界のダンス最前線~

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関口 紘一 text by Koichi Sekiguchi 
[2012.03.12]

10名のパリ・オペラ座バレエ団ダンサーの洗練されたダンス、「エトワール」公演

étoiles   l'éléance du ballet français
Love from Paris  エトワール~フランス・バレエのエレガンス~
I.CIARAVOLA, D.GILBERT, M.GANIO, B.PECH, M.OULD-BRAHAM, J.HOFFALT, F.MAGNENET, M.FROUSTEY, C.GIEZENDANNER, Y.BITTENCOURT
イザベル・シアラヴォラ、ドロテ・ジルベール、マチュー・ガニオ、バンジャマン・ペシュ、ミリアム・ウルド=ブラーム、ジョシュア・オファルト、フロリアン・マニュネ、マチルド・フルステ、シャルリーヌ・ギゼンダナー、ヤニック・ビトンクール

『エトワール〜フランス・バレエのエレガンス〜』は、アーティスティック・オーガナイザーのバンジャマン・ペッシュが中心となって、出演ダンサーと話し合いプログラムを構成している。すべてパリ・オペラ座バレエ団のスジェからエトワールまでの10人のダンサーが出演した。さすがパリ・オペラ座と思わせる洗練されたバランスの良いプログラムと洒脱な表現力で、古典名作作品からバランシンやプティ、そして現代のビゴンゼッティやマルティネス、ペッシュ自身の作品までを披露した。

tokyo1203e02.jpg 撮影/瀬戸秀美

Aプログラム
Aプログラムは、バランシン振付、モーリス・ラヴェル音楽の『ソナチネ』で開幕。エトワールのドロテ・ジルベールとプルミエール・ダンスールのフロリアン・マニュネが榎本真弓のピアノ演奏とともに踊った。音楽はラヴェルのピアノソナタ。三つの楽章をスローなテンポの1楽章、メヌエットの2楽章、そして3楽章の快活なテンポの曲調にのせて、大きなステップと上体を捻ったり、腰を大きく曲げる独特のニュアンスのある動きなどで構成されていた。マニュネはあのマチアス・エイマンの怪我のために代わって参加したダンサーだそうだが、まるでもう何年もパートナーを組んでいるかのようだった。
ヌレエフ版『ロミオとジュリエット』の第一幕の出会いのシーンの「マドリガル」は、スジェのシャルリーヌ・ギゼンダナーとプルミエール・ダンスールのジョシュア・オファルト。ギゼンダナーのオレンジの衣装とオファルトの赤のトップが初々しい愛の喜びをたくまずして表している。ギゼンダナーのジュリエットのヴァリエーションが活き活きと輝いていた。この記事の編集作業中に、オファルトのエトワール昇進という喜ばしいニュースが飛び込んできた。
そしてローラン・プティの『狼』はプルミエール・ダンスーズのミリアム・ウルド=ブラームとエトワールのバンジャマン・ペッシュ。プティ得意のの異形ものだが、70年代の雰囲気を彷彿させる作品で、なかなか味わいがある。狼のアンヴィバレントな愛を描いているのだが、ウルド=ブラームが良かった。情感豊かな表現がじつに魅力的だった。
マチルド・フルステとヤニック・ビクントールのスジェ同士のペアによる『チャイコフスキー・パ・ド・ドゥ』。黒髪と黒い瞳でチャーミングな身体のフルステと骨格が大柄なビクントールだが、踊るとバランスがいいのだ。リフトも余裕があって堂々としていた。
前半の締め括りは、イザベル・シアラヴオラとマチュー・ガニオの『オネーギン』。時間を取り戻そうとするかのような悔悟と自責に苛まれて愛を訴える男と、溢れ出る情感に溺れそうになる心を必死で理性で制御しようとする女の、凄絶なまなじりを決して、生を賭した対決が踊られた。

休憩の後、ミリアム・ウルド=ブラアームとジョシュア・オファルトの『ジゼル』第2幕。ウルド=ブラアームは、まるで今、あの石版画から抜け出てきたような雰囲気を持ったウィリとなった。オファルトの大きくはっきりしたサポートにも助けられて、古き良きゆかしさを残す『ジゼル』を踊った。
続いて最近引退したばかりの元エトワール、ジョゼ・マルティネスが振付けた『ドリーブ組曲』をフルステとマニュネが踊った。アニエス・ルテステュによる衣裳のミニスカートのように短いチュチュがとても良く似合っていたし、若々しい色の構成が素敵な印象を残した。『コッペリア』でお馴染みのドリーブの曲を楽しい踊りで集成した舞台だ。
『ドガの小さな踊り子』は、70年代にオペラ座のエトワールとして、道化もジークフリート王子も踊り、放蕩息子などでは優れた演技力もみせたパトリス・バールが振付けた作品で日本初演となる。ここではオペラ座バレエ学校の少女がパトロン候補と踊る第1幕のパ・ド・ドゥ。小柄で愛らしいシャルリーヌ・ギゼンダナーと長身で力強いビトンクールが踊った。
ローラン・プティの『ランデヴー』は、イザベル・シアラヴォラとバンジャマン・ペッシュ。これは1945年パリのサラ・ベルナール劇場で初演された。音楽はジョゼフ・コスマの作曲で、のちにイブ・モンタンが歌って有名になった『枯れ葉』など。ある青年が運命の女と出会って殺されるまでをブラッサイの撮影した有名なパリの情景を背景に描いた。ドイツの占領を経た第二次大戦直後のパリの街に漂う死の影を鋭敏な感覚で捉えたプティの傑作だ。独特の存在感をみせたシアラヴォラと青年の絶望的な死を表したペッシュ。オペラ座のダンサーならではの闇を背負ったパリが一瞬、出現した舞台だった。
ラストはドロテ・ジルベールとマチュー・オガニオの『マノン』第一幕の寝室のパ・ド・ドゥ。ジルベールは派手に大向こうにアピールするような動きはまったくないが、品よくしかし兄レスコーの枷から解き放たれたように踊った。ガニオもそれに応える堂々とした踊りだった。
(2012年1月28日 昭和女子大学 人見記念講堂)

tokyo1203e01.jpg 撮影/瀬戸秀美 tokyo1203e03.jpg 撮影/瀬戸秀美
tokyo1203e04.jpg 撮影/瀬戸秀美 tokyo1203e05.jpg 撮影/瀬戸秀美
tokyo1203e06.jpg 撮影/瀬戸秀美 tokyo1203e07.jpg 撮影/瀬戸秀美
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Bプログラム
まず印象的だったのはマウロ・ビゴンゼッティの『カラヴァッジオ』。ウルド=ブラームとガニオが踊った。16世紀から17世紀の初頭にかけてバロック絵画の画家として破天荒な人生を送ったカラヴァッジオの創造した世界に迫ったダンスだ。身体を密着させ絡み合い続けるような複雑な動きのパ・ド・ドゥで、バロック的背景に一閃の光を当てて世界を捉えてみせたカラヴァッジオの美が、その入り組んだ動きの中に現れたかにも見えた。ガニオは、有り余る才能を持て余して無頼の生活を続け殺人まで犯した、と言われるカラヴァッジオとはほど遠い大人しくハンサムに見えた。しかしこの作品のオリジナルキャストがマラーホフだったことを思えば、カラヴァッジオが描いた絵の美を表すためにはガニオの美しさが効果的だったのだろう。そして最近のガニオは、下半身の様子がローラン・プティのバレエ団で踊っていた父親のデニス・ガニオを思い起こさせるようになってきた。
『ミューズを率いるアポロ』でもガニオは、堂々とした身体を充分に使って踊り、舞台上でも存在感も次第に感じられるようになってきた。エトワールとしての責任感が、ダンサーとしていっそう充実した力を発揮させているのかもしれない。次はぜひ、アポロ誕生のシーンから踊ってもらいたい、と思った。
バンジャマン・ペッシュはBプロでは、自作の『スターバト・マテール』を世界初演した。これはアントニオ・ヴィヴァルディの『スターバト・マテール』に振付けたパ・ド・ドゥ。振付の作業はパリでオペラ座のエレオノラ・アバニャートと行ったそうだが、ここではドロテ・ジルベールと踊った。舞台中央にプロセニアムと相似形の窓を作って背後から光を放って踊り、処刑されるキリストと聖母マリアの心の交流を描いた。高潔な悲しみが美しく輝くように感じられたダンスである。そのほかにペッシュは、ノイマイヤーの『椿姫』の第3幕のパ・ド・ドゥをシアラヴォラと踊った。ドラマティック・バレエのダンサーとして定評を得た感のあるシアラヴォラに、ペッシュが正確な心理描写で応えた。このペアはAプロでも踊った『ランデヴー』を踊って舞台を盛り上げた。

tokyo1203e14.jpg 撮影/瀬戸秀美

そして最後は、オファルト、マニュネ、ビクントールという男性ダンサー3人が、お揃いの白いシャツと黒いサスペンダー付きのパンツで踊った『オーニス』。パリ・オペラ座のGRCOP(現代舞踊研究所)の創設者で所長だったジャック・ガルニエが振付けたダンスだ。軽快な動きで3人が揃って動いたり、それぞれに動いて形を作ったり、様々に踊った。民族舞踊をアレンジしたダンスもあり、洒脱な構成のなかなか楽しめた舞台だった。こうした作品でしめ括るところも気が利いているプログラムである。
さすがに粒ぞろいのダンサーたちでテクニックも達者だったし、プログラムのバランスも良く大いに楽しめた舞台だった。しかし、かつてのパトリック・デュポンやシャルル・ジュド、あるいはマニュエル・ルグリなどが野心的に飛躍を目指していた全盛時代に比べると、今日のオペラ座のダンサーは大人しく感じられた。もっと何か大きな野心をもってチャレンジする精神があってもいのではないか、とも感じられたのである。
(2012年2月1日 ゆうぽうとホール)

tokyo1203e09.jpg 撮影/瀬戸秀美 tokyo1203e10.jpg 撮影/瀬戸秀美
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