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佐々木 三重子 text by Mieko Sasaki 
[2012.03.12]

ロイヤル・バレエのアリーナ・コジョカルが現代作品を踊って新たな魅力を発揮

〈Alina Cojocaru Dream Project〉
〈アリーナ・コジョカル ドリーム・プロジェクト〉
Program A: Johan Kobborg “Les Lutins”; Harald Lander “Etudes”; etc.
Program B: Flemming Flindt “The Lesson”; Marius Petipa “Don Qouixote” Divertissment; etc
Aプロ:ヨハン・コボー『レ・リュタン』;ハラルド・ランダー『エチュード』ほか
Bプロ:フレミング・フリント『ザ・レッスン』;マリウス・プティパ『ドン・キホーテ』ディヴェルティスマンほか

英国ロイヤル・バレエ団の大輪のスター、アリーナ・コジョカルが、ロンドンの仲間たちと新旧の優れた作品を上演しようと2年掛りで企画した〈アリーナ・コジョカル ドリーム・プロジェクト〉が実現した。参加したのは、同じバレエ団のヨハン・コボーやロベルタ・マルケスらに、急きょ来日が決まったハンブルク・バレエのアレクサンドル・リアブコといずれ劣らぬ実力派ばかり。この1月に、ロイヤル・バレエ団を退団すると発表して驚かせたセルゲイ・ポルーニンも来演した。A、B2種のプログラムは、古典名作に話題の現代作品を盛り込んだヴァラエティに富んだもので、中でもコジョカルが踊るコボーやフレミング・フリントの振付作品が注目された。

tokyo1203b0219.jpg photo:Kiyonori Hasegawa

Aプロは最初のほうを見逃してしまい、『チャイコフスキー・パ・ド・ドゥ』から観た。ロイヤル・バレエ団のローレン・カスバートソンがイングリッシュ・ナショナル・バレエの21歳の新鋭、ワディム・ムンタギロフとペアを組んだ。カスバートソンは脚のラインも美しく、しなやかな身のこなし、音楽にのった見事なシェネやフェッテを見せ、ムンタギロフもアントルシャなどを折り目正しくにこなし、典雅な雰囲気でデュエットを展開した。

『レ・リュタン』はコボーがロイヤル・バレエ団で創作した最初の作品で、ヴィエニャフスキとバッジーニによる超絶技巧のヴァリオリン曲の演奏に呼応するように、白いシャツに黒いサスペンダーパンツの3人のダンサーが張り合うように妙技を披露するもの。踊ったのは、2009年の初演時と同じコジョカル、スティーヴン・マックレー、セルゲイ・ポルーニンという名うてのダンサーたち。ヴァイオリンの若き名手チャーリー・シエムとピアノの高橋望が登場して下手に陣取り、シエムが客席に向かって日本語で挨拶して演奏を始めると、マックレーが飛び込んできて華麗な回転技をみせ、軽やかにタップダンス風のステップを踏んだ。シエムはマックレーをほめ、「次はバッジーニ」と告げて彼の曲を弾き始めると、ポルーニンが現れ、同様に超絶技巧を披露した。ポルーニンが鮮やかなトゥール・ザン・レールや手をつかない側転を見せれば、マックレーは空中で180度の開脚もきれいなジャンプを連続させ、さながらテクニック合戦。互いに茶々を入れるような一幕もみせた。そこに、女性的な腕や腰のラインを際立たせるようにコジョカルが後ろ向きで登場し、回転技など男性顔負けのテクニックを、いとも容易くこなしてみせた。コジョカルをめぐって、マックレーとポルーニンがさらなる張り合いや駆け引きを演じた。コジョカルはヴァイオリンのシエムに惹かれたようで、ポーッとのぼせたような眼差しを彼に送る様が微笑ましかった。たわいのない内容だが、作品を息づかせたのはシエナとダンサーたちの絶妙なアンサンブル。コボーの振付のセンスもなかなかのもので、更なる作品が期待される。

締めはハラルド・ランダーの『エチュード』。基本のテクニックから難度のステップへと、ダンサーが行うレッスン風景を舞台作品に仕立てたもので、東京バレエ団にとってはお馴染みの演目。だがコジョカルら4人のゲストが加わったことで、俄然、舞台は活気づいた。女性は大部分をクラシック・チュチュで踊るが、ロマンティック・チュチュで踊るシーンも組まれており、そこではコジョカルがコボーのサポートで、妖精のようにたおやかに典雅に舞い、幻想的な雰囲気を醸した。対照的にクラシック・チュチュに着替えての終盤、コジョカルは機械のように高速で回るシェネや戦士のように勇壮なグラン・ジュテを披露し、強靭な技で圧倒した。マックレーとポルーニンは、『レ・リュタン』の延長のように跳躍や回転で大技を競った。マックレーが切れ味鋭く、端正に決めるのに比べて、ポルーニンはスケール大きく、ダイナミックに踊る傾向があるように思えた。東京バレエ団のダンサーたちのアンサンブルも、音楽と合致してよく揃っていた。気になったところといえば、左右から舞台を対角線上にグラン・ジュテで行き交う場面で、舞台の幅が広いためか、きつそうに見えたことだった。ともあれ、コジョカルらの参加で極上の舞台となった。
(2012年2月17日 ゆうぽうとホール)

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Bプロは、Aプロ同様『ラリナ・ワルツ』で幕を開けた。ロイヤル・バレエ団の新鋭、リアム・スカーレットが、このプロジェクトのためにチャイコフスキーのオペラ『エフゲニー・オネーギン』第2幕からの曲に振付けたクラシカルな作品で、ロンドンからのダンサー全員が出演した。男女のペアによるパ・ド・ドゥにソロやトリオが織り込まれた顔見世的な演目。3人の女性は白いクラシック・チュチュ、4人の男性は黒のタイツとオーソドックスな衣裳で、オープニングにふさわしい華やかなステージが展開された。

続いて古典作品が3つ上演された。『タランテラ』では、マルケスとマックレーがタンバリンを軽やかに打ち鳴らし、溌剌と踊った。小柄なマルケスの可憐な演技と細身のマックレーの切れ味の良い足さばきが光った。『くるみ割り人形』よりグラン・パ・ド・ドゥを踊ったのはイングリッシュ・ナショナル・バレエのペア。脚のラインが美しいダリア・クリメントヴァは、高くリフトされた時のポーズも美しく、グラン・フェッテも優雅にこなした。ムンタギロフはパートナーとの息遣いも良く、音楽にのり安定感のあるピルエットをこなした。『ディアナとアクテオン』では、長身で見映えのするカスバートソンの洗練された身のこなしと、ポルーニンの屈強なジャンプが冴えた。

そしてコジョカルが踊るノイマイヤーの『椿姫』より第3幕のパ・ド・ドゥ。傷心のマルグリットがアルマンを訪ね、これ以上つらい仕打ちをしないでと懇願する場面である。アルマン役は、彼女がハンブルク・バレエに客演した時に共演したリアブコ。床に座ったままマルグリットを見やる眼差しだけで、アルマンの性格や心の内を伝えてしまう演技力のすごさ。リアブコが、マルグリットを拒もうとしならが離れられないという心の葛藤を全身でストレートに表せば、最初は陰のある成熟した大人の雰囲気を漂わせていたコジョカルも自分の心を抑えきれず、彼の熱情に身をゆだねて抱擁されリフトされる。一分の隙もなく流れるように構成された振りを、乱れることなく激情をほとばしらせて踊りきった二人のデュエットは、この上なくドラマティックで深い余韻を残した。

次の『ザ・レッスン』で、コジョカルはさらに新たな一面を見せた。デンマークの振付家、フレミング・フリントが、1963年、イヨネスコの不条理劇『授業』を原作に、ジョルジュ・ドルリューの音楽を用いて創作した30分の作品。原作の初老の教授、女学生、女中は、バレエ教師、女生徒、ピアニストに置き換えられている。舞台は半地下のレッスン室で、ピアノやレッスンバーが置かれている。ピアニストが散らかった部屋を片付けていると、呼び鈴が鳴り生徒が入ってくる。奥から神経質なバレエ教師が現れ、始めは快活な生徒におどおどしていたが、次第に両者の関係は逆転。ピアニストを追い出すと、教師の尋常でないレッスンはエスカレートし、逃げようとする生徒を絞め殺してしまう。そこに入ってきたピアニストは少しも驚かず、元の気弱な性格に戻った教師を促し、死体を奥の部屋に運び去る。ピアニストが乱れた部屋を片付けていると、次の生徒が来たのか、呼び鈴が鳴った。次なる惨劇を暗示する、不気味なエンディングである。
黄色い服のコジョカルは、レッスンが楽しくてたまらないという可愛らしい10代の生徒になりきっていた。うまくステップが踏めなかったり、たどたどしいポアントでおどけて見せたりしたのが、教師の異常なサポートやリフトに不安を覚え、精神的にも追い詰められていく恐怖をリアルに演じて秀逸だった。バレエ教師役のコボーも素晴らしく、落ち着かない目付きに異常さを漂わせ、自制できずに狂気に駆られていく様を、迫真の演技で伝えていた。ピアニスト役のカスバートソンは、何事にも動じない沈着冷静さを保ち、バレエ教師を操っているかような得体の知れない不気味さを湛えていた。こうした三者の綿密な演技の相乗効果で、見応えのある舞台になっていた。

最後は『ドン・キホーテ』ディヴェルティスマン。第3幕のグラン・パ・ド・ドゥを中心に他のヴァリエーションも交えたもので、ロンドン勢による4組のキトリとバジルが華やかさを競い、東京バレエ団の女性陣も加わって賑やかに締め括られた。メインはコジョカルとコボーのデュオだが、コジョカルが見せたアチチュードでの驚異的なバランスや超人的なフェッテの妙技は特筆に値するだろう。他のダンサーも回転や跳躍でそれぞれの得意技を披露しており、とてもいちいち触れられない。4人のバジルがコーダで一斉に回転するなど、エンターテインメント性も豊か。お祭り気分も最高潮のうちに、第1回〈ドリーム・プロジェクト〉は幕を閉じた。厳選されたダンサーと演目選びが成功の元だったろう。次回を期待させる、質の高い公演だった。
(2012年2月21日 ゆうぽうとホール)

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