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佐々木 三重子 text by Mieko Sasaki 
[2012.02.10]

マラーホフが虐げられた者の悲しみを伝えた『ペトルーシュカ』

〈ニジンスキー・ガラ〉
東京バレエ団
tokyo1202d01.jpg photo:Kiyonori Hasegawa

東京バレエ団が新春公演として、ウラジーミル・マラーホフを招き、ニジンスキーが得意とした演目による〈ニジンスキー・ガラ〉を開催した。2007年に企画されていた公演だそうだが、マラーホフが膝の手術を受けたため延期になっていたという。初日の幕開けはフォーキン振付『薔薇の精』。タイトルロールを踊ったのは、マラーホフが芸術監督を務めるベルリン国立バレエ団の新鋭、ディヌ・タマズラカル。なよやかに身体を動かし、弧を描くように跳び、柔らかく着地する。ただ、頭上で両腕を揺らめかせて交差させる動きがまだこなれておらず、また両性具有の妖しさより男性的な感性が勝っていたように感じた。少女役の吉川留衣は、目覚めた後の夢見心地の表情が可愛らしかった。

『牧神の午後』は、驚異的な跳躍で人気を博したニジンスキーが、その跳躍を封じ、横向きの動きで振付けた異色作。マラーホフが演じた牧神は、野性味は匂わせていたが、獣性や欲望は以前より薄まったように思う。ニンフは上野水香。上体をそらした横向きのポーズを際立たせていたが、この役は初挑戦だからか、硬さが感じられた。人間ではないニンフという役をどう体現するか、難しいところだろう。ショパンのピアノ曲によるフォーキン振付『レ・シルフィード』は、東京バレエ団のダンサーのみによる上演。プレリュードを踊った吉岡美佳が、滑らかな腕の動き、繊細なステップで詩的な情緒を醸した。ワルツの高木綾やマズルカの田中結子も音楽に乗って軽やかに踊り、詩人の木村和夫は手堅く舞台を引き締めた。

tokyo1202d07.jpg photo:Kiyonori Hasegawa

後はフォーキン振付『ペトルーシュカ』。ストラヴィンスキーの音楽を用い、謝肉祭で賑わうサンクトペテルブルクを舞台に、魂を吹き込まれた道化人形ペトルーシュカの悲劇を描いた作品で、マラーホフがこの役を日本で踊るのは初めてという。道化の衣裳をまとい、顔には表情がわからないほど濃いメイクを施し、体をひしゃげて踊るペトルーシュカの姿は、牧神同様、“貴公子”というマラーホフのイメージにはそぐわない役に見える。
ペトルーシュカは、見世物師シャルラタンに翻弄され、恋するバレリーナにはふられ、彼女と愛し合うムーア人に切られたあげく、亡霊となって怒りを爆発させて果てる道化人形なのだから。マラーホフは、手足の関節を人形のように自在に動かして踊り、体を歪めたポーズに支配される者の辛さや悲哀を滲ませた。うつろな目は隠しおおせない何かを訴えているようで、印象的だった。演技は過剰にならないよう抑制しているように見えたが、それでも、芝居小屋の屋根に現れたペトルーシュカの亡霊がシャルラタンに向かって恨みを投げつける姿からは、魂の絶叫が聞こえてくるようだった。幕切れ、物体と化したように頭を垂れて揺れる姿に虚しさが凝縮されているようで、胸を打った。

バレリーナは小出領子。テンポの速い細かい脚さばきを、コントロールも巧みに完璧にこなし、鮮やかな人形振りだった。ムーア人は後藤晴雄。朴訥で直情的な感じは出ていたが、これに不敵な逞しさが備わればと思う。シャルラタンは踊りより身振りで演じる役。柄本弾は、ふてぶてしく振る舞っていたが、時として自身の若さが顔を出してしまったところがあった。なお、この作品では謝肉祭の賑わいを伝える様々な踊りも盛り込まれており、実際、レベルの高い踊りが舞台に彩りを添えていた。踊りを競う女性ダンサー、見事なジャンプを披露するコサックダンスの若者、弾丸のように広場を疾走するサタン姿のダンサーなどなど。これらのダンサーの名前も、配役表に記載してもよいのではと思った。
(2012年1月12日 東京文化会館)

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