ワールドレポート ~世界のダンス最前線~

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佐々木 三重子 text by Mieko Sasaki 
[2011.12.12]

謎に満ちたエオンの騎士の生涯を解き明かすスペクタクルなパフォーマンス

Conceived and performed by Sylvie Guillem, Robert Lepage, Russell Maliphant “Eonnagata”
シルヴィ・ギエム、ロベール・ルパージュ、ラッセル・マリファント『エオンナガタ』
tokyo1112b01.jpg photo:Kiyonori Hasegawa

バレエ界のシルヴィ・ギエム、演劇界のロベール・ルパージュ、コンテンポラリー・ダンス界のラッセル・マリファントという、それぞれのジャンルの逸材のコラボラーションにより生まれた『エオンナガタ』(2009年初演)は、ダンスと演劇を掛け合わせたようなスペクタクルな舞台作品だった。タイトルは、シュヴァリエ・デオン(エオンの騎士)の「エオン」と歌舞伎の「女形」を組み合わせた造語。1728年フランスに生まれたエオンは、ルイ15世の命で女装スパイとしてロシアの女帝に近づいて仏露国交回復を果たし、七年戦争では竜騎兵隊隊長として活躍し、ルイ15世の命により渡英し、情報活動のため女装もいとわなかった。ルイ16世の命を受けた劇作家ボーマルシェとの駆け引きで帰国したものの、生涯、女性として生きるよう強いられたことに反発し、再び渡英したためフランス革命からは逃れられたが、晩年は見世物の女剣士に身を落とし、貧困の内に82年の波瀾に富んだ生涯を終えたという。『エオンナガタ』は、49年は男として、33年は女として生きたエオンの数奇な一生を、男と女の人格の間で揺れ動く内面を掘り下げ、歴史に翻弄された生き様を浮き彫りにした。共演者の顔触れから、ルパージュが演出し、マリファントが振付を手掛け、ギエムとマリファントが踊ると思いがちだが、実際は3人がエオンの人生の異なる時期や人格を演じ分け、またエオンと係わった人物にも扮する形で進行した。タイトルからうかがえるように、歌舞伎や文楽の小道具や手法を上手く採り入れていた。

tokyo1112b02.jpg photo:Kiyonori Hasegawa

要所でエオンについてのナレーションや内心を吐露するエオンの手紙やルイ15世の書簡の朗読が挿入され、これを受けてダンスやパフォーマンスが展開された。冒頭、霧の立ちこめる舞台でルパージュは剣を振り回してエオンが剣に秀でた騎士であることを伝え、白い衣裳で現れたギエムはエオンの謎の多い生涯を性別も含めて語り、文楽人形の頭(良く見えなかったが、かんざしを挿した男の頭だったかもしれない)をのせた打ち掛けの中から現れたマリファントは、女装を強いられたエオンを思わせるように着物を操って踊った。3人はゲームを楽しむようにテーブルの上を滑ったり、飛び乗ったり、テーブルをあちこち移動させたりして絡み合い、スピード感溢れるダンスを展開したが、エオンにも無邪気に戯れる子供時代があったはず。棒を操ってのイクサごっこもその延長だろう。ダンサーではないルパージュが、アクロバティックな動きを結構こなしていた。ギエムがマリファントの服の下から赤いリボンを引き出したのは女性の生理を表すもので、ひげや体毛がなかったというエオンの両性具有的な側面を暗示していた。衣裳は、3人とも蜘蛛の巣のような線が描かれたレオタードで、場面に応じてガウンをはおったり、赤い扇子を首の後ろに襟のように立てたり、スカートをふくらませるパニエをつけたりして変化させた。

tokyo1112b03.jpg photo:Kiyonori Hasegawa

印象に残るのは、やはりギエムが踊るシーンだった。他の2人に棒で操られるまま無抵抗に横たわる様や、衣紋掛にかけられた薄手の着物に袖を通すと中の棒が抜かれ、男性性を失って戸惑うような姿、薄手のガウン越しに女性の身体の美しさを匂い立たせたソロは、エオンの不確かなアイデンティティを提示し、マリファントとのデュエットでは柔軟に体をたわめ、脚を180度以上も開き、強靭さと繊細さを表現した。それにしても、短いシーンを手際よく繋いだ演出は卓越していた。3人がエオンを演じたことで、男のエオンと女のエオンを瞬時に入れ替わらせたり、対峙させたりして異なる人格を示唆し、さらに両者と距離を置く第3のエオンの存在も感じさせた。また、二人羽織の手法を用いた“4本腕の着物”のシーンや、ギエムとマリファントが互いの鏡に映る動きをなぞるうちに、半身男で半身女の姿を表出するなど、虚と実を錯綜させた鏡のマジックにも惹きこまれた。

終盤、白粉を塗り老いたエオンに扮したルパージュが、鏡のテーブルに映る自身の姿を眺めた後、客席に向けた眼差しには、絶望的な孤独や、やりどころのない怨嗟がこめられていた。エオンが息を引き取ると、ギエムとマリファントが検死官の服装で現れ、エオンの股間を調べ、男であったと確認し、去っていく。けれど死体の上に吊るされた振り子が振幅の幅を増していく幕切れは、底知れぬ無気味さを湛えていた。それは男と女、栄光と没落、称賛と誹謗など、両極の間で揺れ続けたエオンの人生そのもののように映った。『エオンナガタ』は、ダンスだけ、芝居だけでは到達できない斬新なステージだった。最後に記しておきたいのはマイケル・ハルズの照明。パフォーマンスに連動してダイナミックに変化させ、照明だけで牢獄を表出するなど、見事だった。
(2011年11月17日 ゆうぽうとホール)