ワールドレポート ~世界のダンス最前線~

From Tokyo <東京>: 最新の記事

From Tokyo <東京>: 月別アーカイブ

関口 紘一 text by Koichi Sekiguchi 
[2011.11.10]

岡本太郎美術館でTAROと踊った上田遙と白河直子作品

「TAROと踊ろう!」上田遙 振付・構成・演出、大島早紀子 振付・構成・演出 白河直子 出演
岡本太郎美術館

川崎市立岡本太郎美術館が岡本太郎の生誕100年を記念して「TAROと踊ろう!」を開催した。岡本太郎の作品をモティーフにした上田遙、白河直子、小池博史という3人の舞踊家の作品の競演だ。上田遥作品と白河直子作品を観た。
岡本太郎美術館は川崎市の緑豊かな生田緑地の中にある。ここは青少年科学館、伝統工芸館、藤子・F・不二雄ミュージアムなどの公共施設が集まっている多摩丘陵の一角。岡本太郎美術館は、日本全国の古民家を集めた日本民家園と隣接している。緑に満ちあふれた丘陵の環境を十分に生かした素敵な佇ずまいだ。

tokyo1111g01.jpg 撮影:大洞博靖

上田作品は「乙女」「縄文人」「リボンの子」「ノン」「月の顔」「河童像」「樹霊」の7作品をモティーフにして10章のダンスを創った。まずは、サラリーマン風のオジサンからプリマ・バレリーナまで様々なダンサーたちが太郎を讃える入場行進で始まった。展示場のコーナーを使ったスペースで壁面には太郎の異形の彫刻が並べられ、太郎の独特のポーズの赤いシルエットが切り抜かれてところどころに立っている。玉野和紀がタップを鳴らして、太郎の特有の仕草を繰り返して客席の笑いを誘う。バレエやタップ、モダンダンス、フラメンコ、ジャズダンス、ヒップホップなどが踊られ、活気溢れる舞台だった。こうした様々なダンスを自在に構成することにより、太郎の鮮烈なクリエイティブなエネルギーを提示した。ただモティーフとする太郎の作品に対して、少しベタに感じられてしまったところもあったのは少し残念だった。それだけ太郎の芸術が突き抜けているということであり、さらにアメージングなイメージへの挑戦を期待したい。

tokyo1111g02.jpg 撮影:大洞博靖

白河作品は盟友の大島早紀子が構成・演出・振付けたもの。岡本太郎の『夜』という1947年に描かれた絵に触発された作品だ。ナイフを背後に隠し持った若い女性が、夜の闇に決然と立ち向かう姿を描いたものだが、夜のイメージが強烈。闇の中に青白い大樹が不気味にくねった無数の枝が張り巡らせ、赤い地獄の炎がチラチラと燃えている。その奥には小さな毒の実のように髑髏が成っていて、全体を見ると恐怖に歪んだ顔のようにも感じられる。
ヒールを履いて登場した白河は闇と闘う気持ちをナイフの切っ先に込めた激しい踊り。そしてヒールを脱ぎ、ナイフを棄て恐怖や死の影と闘い、やがて美しいアリアに迎えられる。60年以上以前に岡本太郎が立ち向かった夜のイメージが、今日、まさに現実の姿となって私たちに襲いかかってきたではないか。下手に設えられていた「太陽の鐘」に原子炉のイメージが重なる。白河の優れた身体表現能力が半世紀の時を超えて太郎の芸術と共鳴し、美術館の空間を恐怖のエネルギーが充満し、深い闇の彼方にもしかすると存在するかも知れない希望への祈りへと収斂されていった。屹立するスピリットが鮮やかに浮かび上がった素晴らしいソロだった。
(2011年10月1日 岡本太郎美術館)