ワールドレポート ~世界のダンス最前線~

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佐々木 三重子 text by Mieko Sasaki 
[2011.11.10]

被災地を思うギエムの心が実現させた夢のチャリティ・ガラ公演

〈HOPE JAPAN TOUR〉シルヴィ・ギエム・オン・ステージ2011
[東日本大震災復興支援チャリティ・ガラ]

シルヴィ・ギエムの『ボレロ』が復活し、マニュエル・ルグリとマッシモ・ムッルがソロを踊り、英国バレエ界の重鎮、アンソニー・ダウエルが詩を朗読し、オペラ歌手の藤村実穂子が日本歌曲を歌い、日本舞踊の花柳壽輔と横笛の藤舎名生と和太鼓の林英哲が即興で共演した。この夢のような公演は、[東日本大震災復興支援チャリティ・ガラ]として、ギエムの呼びかけで実現したもの。〈HOPE JAPAN TOUR〉と銘打った今年の〈シルヴィ・ギエム・オン・ステージ2011〉のオープニングを飾る特別公演でもあった。なお、ギエムは4月にパリで行われた〈HOPE JAPAN〉チャリティ・ガラの開催にも尽力し、7月にはロンドンでの自身の公演を〈6000 miles away〉と名付けて義援金を集めている。

tokyo1111a01.jpg photo / kiyonori Hasegawa

幕開けは、東京バレエ団によるベジャールの『現代のためのミサ』より“ジャーク”。同団として今年2月に『ダンス・イン・ザ・ミラー』の一部として初演したばかりの作品で、Tシャツにジーンズの若者たちが勢いよく踊った。続いて登場したダウエルは、ギエムの呼びかけでこの公演が実現したことを述べ、自身が芸術監督を務めた英国ロイヤル・バレエ団の創設者であるニネット・ド・ヴァロワが詩作にも秀でていたことを紹介し、代表的な詩を2篇朗読した。そのうち『子どもの言うには…』は、『千の風になって』をしのばせる内容で、ドラマッティックな抑揚を排した明澄なダウエルの朗読が心に沁みた。

ギエムが最初に踊ったのはベジャールの『ルナ』。「太陽」に相対する「月」を描いたソロという。冥界を思わせる闇の底から静々と歩み出て、極限まで身体をたわめ、頭上高く脚を振り上げ、うつ伏せになってしなやかに背をそらす。一つ一つのパの精緻さやカーヴを描く甲や爪先の美しさに魅せられた。以前、純白の総タイツで踊るのを観た時は、光り輝く月の化身のように映ったが、白のシャツにパンツで現れた今回は、身体から抜け出た霊魂のように見え、鎮魂の思いを込めて踊っているのが感じられた。
ミラノ・スカラ座バレエ団のムッルは、プティの『アルルの女』より青年フレデリの幕切れのソロを踊った。見開いた目と歪めた上体で女の幻影に捕らわれた様を瞬時に伝え、せわしなく跳び、駆け回り、窓から身を投げるまで、苦悩と恐怖を滲ませて踊った。続いて、『火の道』と題された“和”の舞台が現前した。空間を貫くように響き渡る名生の横笛に林の和太鼓がしなやかに絡み、深遠なデュオが奏でられた後、舞台後方から現れた壽輔が加わり、即興の舞いを披露した。バレエとは異なる姿勢や足さばきで、“静”の中に内在する“動”を彷彿させた。

第2部はルグリによるロビンズの『ダンス組曲』抜粋で始まった。バッハの「無伴奏チェロ組曲」を用いた作品で、第5番「サラバンド」と第6番「プレリュード」が踊られた。真っ赤なシャツとパンツを着たルグリが、ステージ上で演奏するチェロの新進・遠藤真理を青年のような眼差しで見つめ、何気ないステップに始まり次第に高度な技を披露していく。今はウィーン国立バレエ団芸術監督を務めるルグリの、実に瑞々しい演技だった。そして、世界の歌劇場で活躍するメゾソプラノの藤村の独唱。ステージ前面中央に立ち、無伴奏で「十五夜お月さん」「シャボン玉」「さくらさくら」など5曲を、深々と響く声で歌った。繰り返される〈十五夜お月さん〉のフレーズを異なるニュアンスで歌い分けるなど、行間を読み込んだ解釈と繊細な表現で、馴染みある童謡や民謡の奥深さを再認識させた。

最後はベジャールの『ボレロ』。この作品の日本での上演を特別な場合を除き封印したギエムだが、今回の震災に際し、この作品を通して日本の観客と結ばれた絆を再確認し、日本を愛したベジャールの魂を日本に連れてくるため踊ることにしたという。暗がりに浮かぶギエムの手の動きをピンライトが追う冒頭から緊張感が漂ったが、太鼓の刻むリズムに合わせての膝の屈伸は、以前より抑制しているように映った。“メロディー”役に専心する孤高の存在というイメージは薄れ、高揚する音楽に相乗して身体のパワーを放つというよりも、東京バレエの男性が担う“リズム”を意識し、協和するような趣が感じられた。内面的な深みを増した踊りに、震災で受けたギエムの衝撃がしのばれた。なお、この公演の出演者は『ボレロ』を演奏した指揮のアレクサンダー・イングラムと東京シティ・フィルも含め、全員、ノーギャラ。被災地の復興と再生を願う出演者の気持ちが響き合い、それが舞台と客席を強い絆で結びつけたようで、困難を乗り越えようという意欲を分かち合ったようにも感じた。色々な意味で感銘深い公演だった。
(2011年10月19日、東京文化会館)

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