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関口 紘一 text by Koichi Sekiguchi 
[2011.09.12]

小牧正英によって伝えられたバレエ・リュス、小牧正英生誕100年記念公演

小牧正英 演出・振付(フォーキン、ソコルスキーによる)『ペトルウシュカ』『シェヘラザード』
東京小牧バレエ団
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東京小牧バレエ団の小牧正英生誕100年記念公演第一弾は『ペトルウシュカ』と『シェヘラザード』だった。ところが公演の準備中に東日本大震災が勃発し、小牧正英の故郷の岩手県江刺郡も甚大な被害を受け、一時は開催すらが危ぶまれた。しかし団長の菊池宗たちの努力により、東日本大震災復興応援公演として開催されるこになった。そしてまた東京小牧バレエ団も2011年には創立65周年を迎えることになった。

『ペトルウシュカ』と『シェヘラザード』は、前者が1950年に有楽座で後者が46年に帝国劇場で、ともに小牧正英により日本初演された。デイアギレフのバレエ・リュスによる世界初演は今から100年前の1911年と10年だから、日本ではおよそ40年ほどの時が経過してから上演されたことになる。
小牧正英は上海のバレエ・リュスで修得したソコルスキーのヴァージョンに基づいてこのふたつの作品を舞台に上げている。
バレエ・リュスはその最初期を過ぎて、ロシアを題材とした作品を創って成功している。『ペトルウシュカ』もその一つで、バレエ・リュスの有力メンバーだったアレクサンドル・ブノワとフォーキン、ストラヴィンスキーが主体となって創られた。フゥセヴォロジスキー、プティパ、チャイコフスキーが主体となって創られた19世紀のロシア・バレエとは明らかに異なった芸術意識によって創られている。どこかの宮廷の王子や姫、妖精が主人公ではない。ペテルブルグの海軍省前の広場、民衆の祭りの最中の見世物小屋が舞台で、主人公はコメディア・デ・ラルテを思わせるピエロとバレリーナと黒人。舞台上に漂う情感もロマンティックなものではなく、民衆の心の中に流れる哀愁に満ちた感情である。
ペトルウシュカは佐々木大、バレリーナは藤瀬梨菜、ムーア人はロドリゴ・アルマラレス、そして見世物師には団長の菊池宗が扮した。農夫や乳母、馬丁といった人たちやロマやロシア娘たち、子守りたちが踊り、喧噪で猥雑、人々のエネルギーの坩堝で3人の人形の悲劇が起る。それは民衆の魂のドラマだ、と小牧正英は伝えている。

tokyo1109g02.jpg 『ペトルウシュカ』撮影/飯田耕治 tokyo1109g03.jpg 『ペトルウシュカ』撮影/飯田耕治 tokyo1109g04.jpg 『ペトルウシュカ』撮影/飯田耕治
tokyo1109g05.jpg 『シェヘラザード』撮影/飯田耕治

『シェヘラザード』は、『千夜一夜物語』からブノワが台本を起こし、フォーキンがリムスキー=コルサコフの音楽に振付けている。ゾベイダを周東早苗、金の黒奴をアルタンフ・ドゥガラー、サルタン・リアールは原田秀彦、サルタン・ゼーマンを天月聖也、宦官長を酒井正光、シェヘラザードは藤瀬梨菜というキャストだった。
小牧正英版『シェヘラザード』は、アラビアの老人がシェヘラザードにサルタン・リアールと愛妾ゾベイダの物語を語って聞かせる、という形式になっていて、プロローグとエピローグが付けられている。
20世紀初頭に活動したバレエ・リュスの傑作がロシア革命などの影響により、上海に受継がれライセアム劇場で花開き、小牧正英が日本にもたらした。そしてここから日本のバレエの新たな動きが始まることになったわけである。
(2011年7月30日 新国立劇場 オペラパレス)

tokyo1109g06.jpg 『シェヘラザード』撮影/飯田耕治 tokyo1109g07.jpg 『シェヘラザード』撮影/飯田耕治 tokyo1109g08.jpg 『シェヘラザード』撮影/飯田耕治