ワールドレポート ~世界のダンス最前線~

From Tokyo <東京>: 最新の記事

From Tokyo <東京>: 月別アーカイブ

関口 紘一 text by Koichi Sekiguchi 
[2011.07.11]

宇宙をスライスしてみせた、ロプホフの『ダンスシンフォニー』

ガリーナ・サムソバ:演出・振付『ローレンシア』 パ・ド・シス
安達哲治:振付『四季』
フョードル・ロプホフ演出・振付『ダンスシンフォニー----宇宙創造の偉大』
NBAバレエ団 トゥールビヨン公演

NBAバレエ団の第8回トゥールビヨン公演は、ガリーナ・サムソバ演出・振付『ローレンシア』 パ・ド・シス(音楽A.クレイン、L.ミンクス)、安達哲治の新作『四季』(音楽A.グラズノフ)、フョードル・ロプホフ演出・振付『ダンスシンフォニー----宇宙創造の偉大』(音楽L.ベートーヴェン)。シンフォニックなダンスという点にポイントを置いた興味深いプログラムだった。

ロプホフによる『ダンス・シンフォニー----宇宙創造の偉大』は、1922年に1回だけ上演された作品だが、シンフォニーとダンスを構成した意欲的な試みが大いに注目され、舞踊史上に名を残している。NBAバレエ団は、モスクワのクレムリン宮殿バレエ団の振付家で、ロプホフのこの作品に深い関心を抱いていたナタリア・ボスクレシェンスカヤの復元によって2000年に復活世界初演した。(2004年には「第2楽章」を再演している。)
『ダンスシンフォニー』は、ベートーヴェンの「交響曲第四番」の4つの楽章を18人のダンサーを使って、変化に富んだグループ構成とフォーメーションにより視覚化したもの。生命の営為を運動として捉えてダンスシーンを構成している。

tokyo1107d01.jpg tokyo1107d02.jpg

この舞台を見ながら、ワガノワ・バレエ学校の博物館にロプホフが使用したピアノが展示されていた情景を思い出した。そこには一台のピアノとともに、精細を極めた書き込みのある楽譜が置かれ、それを前にして瞑想するかのように思案に耽る一枚のロプホフの写真が飾られていた。
ロプホフはベートーヴェンの「交響曲第4番」の楽曲を精緻に研究し、そこから独特の動きを創った。またロプホフは、サーカスやアクロバットなどにも関心を持っていて、そうしたものから動きの表現を採り入れていたといわれる。
全編を通してステップでリズムを捉え、フォーメーションは楽章によって、円や螺旋と言った幾何的なもの、曲線、ランダムな動きを描くものなどが使われていた。
そしてそれらの運動の要素すべてをひとつのシーンに構成して、オブジェのように提出したのがラストシーンであり、宇宙を造っている運動の切断面とでも言うべきユニークな表現である。既存のクラシック・バレエに囚われることなく、自由な様々なスタイルの動きを音楽の構造にシンクロさせている。中には背中をまるめて腕をだらりと垂らし片足でバランスをとる、といった既存のクラシック・バレエに対する挑戦的な動きすらあった。ロシア・アヴァンギャルドの奔放な実験的精神がロプホフの創造を背後から支えていたのかもしれない。

安達哲治がアレクサンドル・グラズノフの『四季』に振付けた新作は、豊富なダンスのヴォキャブラリーを駆使して、生命と自然の神々との交感を色彩鮮やかに生き生きと描いた。振付家自らが作品を<一大デヴェルテスマン>というだけあって、全体に活力あふれるテンポの良いシーン構成だった。ソリストはもちろん良かったが、少人数のコール・ド・バレエが心地よいリズムを刻んでいて、自然が巡っていく神秘を美しく描いていた。
『ローレンシア』パ・ド・シスは、1939年キーロフ劇場で初演されたチャブキアーニの振付に基づいて、ガリーナ・サムソバが演出・振付けている。スペインの民族的な情緒が色鮮やかに踊られた。
(2011年6月18日 メルパルクホール)

tokyo1107d06.jpg tokyo1107d07.jpg
tokyo1107d04.jpg tokyo1107d05.jpg