ワールドレポート ~世界のダンス最前線~

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関口 紘一 text by Koichi Sekiguchi 
[2011.03.10]

身体が発する詩情を直裁に描いた金魚の『HEAR』

鈴木ユキオ:身体・ダンス、辻直之:アニメーション、内橋和久:音楽『HEAR』
金魚(鈴木ユキオ)
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アスベスト館出身で、いくつかのアートフェスティバルに参加している鈴木ユキオが主宰する金魚の『HEAR』を観た。
身体・ダンスの鈴木ユキオとアニメーションの辻直久、音楽の内橋和久とともに、昨年8月に金沢21世紀美術館で制作した作品。「聴くということ」とタイトルに付記されていたが、非常に微細な音から始まり身体と音の繊細な関係を展開して、自身の存在の感覚を確かめているかのようなダンスだった。

白一色のフロアの舞台にべったりうつ伏せの男。透明なアクリルで創られた五脚の椅子がランダムに置かれ、黒いシンプルな衣裳の二人の女性が静止している。シンプルだが細やかなきれいな音に導かれるかのように、男の身体は平面から三次元の動きを獲得する。やがて静止していた二人の女性も細かく石を打つような微妙な音とともに動き始める。
動きは時にバネに弾かれたように激しく運動したり、身体のあり方を確認するかのような動きを見せたりする。木炭の柔らかい人肌タッチの線が描く抽象的なアニメーションが投影され、時折、ダンサーの裸の身体にも映る。やがて心臓のアニメーションが男の胸に投影され、動悸の音だけが聴こえてくる。
そして舞台壁面に「ぼくのぬくもりがかんじられるだろうか」といった存在感覚の断片を表す言葉が次々と映され、二人の女性が膨らませた白い風船にもそれらの断片の一部分が映って揺れる。音楽は非常にシンプルな優しいメロディの繰り返しとなっていた。身体が発する詩情を直裁に描く構成と言ったら良いのだろうか。
 

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舞台空間のすべてを白と黒のモノトーンで構成して、アニメーションを多用した美術は、客席と舞台フロアが間近な青山円形劇場ではじつに効果的だった。ダンサーと観客が、同じ光の中で同じ音を聴いているという共感がはっきりと感じられ、この作品ならではの劇体験を味わうことができた。
ダンサーの動きの軌跡もシンプルで美しい残像を描いていたし、それぞれの力量もなかなかのもので、振付、演出、美術の鈴木ユキオの構想をしっかりと実現している、と感じられた。
最近のコンテンポラリー・ダンスにしばしばみられるような、攻撃的で暴力的な表現がなかったことも良い印象を残した。激しい動きを行っても、身体に宿る存在の感覚を非常に大切にして表現している舞台であり、海外公演などが予定されている今後の活動にさらに期待したい。
(2011年2月4日 青山円形劇場)

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撮影:松本和幸
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