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佐々木 三重子 text by Mieko Sasaki 
[2011.03.10]

ベジャール作品の粋を集めた『ダンス・イン・ザ・ミラー』

Maurice Béjart (Production concept and staging by Gil Roman) “Dances in the Mirror”/
Maurice Béjart “Cinq Preludes Pour Violoncelle” “Bolero” : The Tokyo Ballet
モーリス・ベジャール:振付、ジル・ロマン:演出・構成『ダンス・イン・ザ・ミラー』/
モーリス・ベジャール:振付『チェロのための5つのプレリュード』『ボレロ』: 東京バレエ団

大小合わせて18ものベジャール作品をレパートリーに持つ東京バレエ団が、この巨匠の名作の名場面で綴った新作『ダンス・イン・ザ・ミラー』をメインとする、ベジャール作品による公演を行った。
新作は、モーリス・ベジャール・バレエ団の芸術監督ジル・ロマンが、“ベジャールへの旅”をテーマに東京バレエ団のために作品を選び、演出・構成したもの。日本では上演されていない『現代のためのミサ』や『未来のためのミサ』が含まれているのが注目された。7つの作品から抜粋された9つのシーンから成る『ダンス・イン・ザ・ミラー』は、『現代のためのミサ』で始まり、東京バレエ団ゆかりの作品や未体験の作品を経て『未来のためのミサ』で終わる。約1時間の作品で、タイトルには、現代のダンサーの身体と精神が過去のダンスを映し出す鏡になるとの意味がこめられているそうだ。主要ダンサーが総出だったことにも、東京バレエ団の熱の入れようがうかがえた。

冒頭、ベジャールの写真が吊るされ、「わたしは踊ることのできぬ神を信じることはできない」と語る肉声が響くと、ベジャールがよみがえったように思えた。
幕開けは『現代のためのミサ』よりの〈ラ・ダンス〉で、30人を超えるダンサーたちがTシャツにジーンズ、スニーカーという出立ちでエネルギーを燃焼させた。黛敏郎の音楽による〈舞楽〉では、袴姿の小笠原亮が勢いのよいジャンプを、4人の男女がパワフルなアンサンブルを見せた。続く〈メロディーたち〉(『未来のためのミサ』)では、「鶴の巣籠」の尺八にのせて女性たちが静けさをたたえた群舞を展開。〈カップル〉(『ヘリオガバル』)では、チャドの伝統音楽に反応するように、上野水香と柄本弾が体のラインも露わに、アクセントの強い動きで原始的なエロスを放出した。
『バロッコ・ベルカント』からはヘンデルらの歌曲を用いた2つダンスで、〈パ・ド・シス〉ではダンサーたちがそれぞれのカラーを主張しながら響き合わせ、〈扇のパ・ド・トロワ〉では、斎藤友佳理と井脇幸江、吉岡美佳が大きな扇を優雅に操りながら、少ない動きにコントロールの上手さをうかがわせた。

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〈男性群舞〉(『M』)と〈アタック〉(『火の鳥』)は、何度も上演している作品だけに、こなれていた。〈男性群舞〉では、高岸直樹を筆頭とする男性陣が底力を発揮し、〈アタック〉では、「男」の役で様々なシーンに立ち会ってきた木村和夫が、精神力を感じさせるシャープな脚さばきでパルチザンたちを鼓舞した。〈フィナーレ〉は『未来のためのミサ』からのシーンで、清澄なグレゴリオ聖歌から陽気なボリビアの音楽に変わり、全員が明るく踊る幕切れは明るい未来、輝かしい希望を感じさせた。全体の構成やシーンのつなげ方、「男」という“さすらい人”のような役の設定などに、ベジャールの好んだ手法を知り尽くしたロマンの手腕がうかがえた。

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休憩後、当初予定されていなかった『チェロのための5つのプレリュード』が、ロマンからのプレゼントとして上演された。
バッハの無伴奏チェロ組曲による、「古びたチェロを大事そうに抱えている男と、可憐な少女の物語」。吉岡美佳のバレエを基調にした端整でしなやかな見のこなしと、高橋竜太の宙返りなどを交えた型破りなパフォーンスが織りなす絶妙なコントラストが楽しめた。
最後は『ボレロ』。「メロディ」はトリプルキャストで、後藤晴雄、高岸直樹、上野水香。今回はベテランの高岸が踊った日を観た。
ライトで照らされた大きな手や円卓上にそびえるような立ち姿で存在感を示し、全身でリズムを刻みながら燃焼度を高めてクライマックスへと導いていった。高岸らしい迫力ある演技だった。
上演された3作品は長さも内容もテーマも異なるが、使われた振りや音楽の枠にとらわれない多彩さ、西洋の文化のほかにも創意の源となった作品や音楽への造詣の深さ、多層的で多義的な作舞法など、改めてベジャールの偉大さを印象づけた。(2011年2月5日、東京文化会館大ホール)

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撮影:Kiyonori Hasegawa
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