ワールドレポート ~世界のダンス最前線~

From Tokyo <東京>: 最新の記事

From Tokyo <東京>: 月別アーカイブ

関口 紘一 text by Koichi Sekiguchi 
[2011.01.11]

橘秋子の不屈の創作意欲に感動した『角兵衛獅子』

橘秋子:台本・原振付、渡辺珠実:芸術監督・ステージング 『角兵衛獅子』
新潟シティバレエ団

「現代舞台芸術に関する地域交流の観点から、全国各地で上演されている優れた現代舞台芸術のプロダクションを新国立劇場に招聘し、地域団体などとの共催による公演を行う」という趣旨で毎年行われている新国立運営財団の「地域招聘公演」。今年は新潟シテイバレエ団の、橘秋子の台本・原振付を芸術監督の渡辺珠実がステージングした『角兵獅子』だった。

tokyo1101e01.jpg

初見だが、新潟シティバレエ団の『角兵衛獅子』はたいへん興味深く観た。
今日ではまったく失われてしまった少女たちの光景だが、橘秋子の原作が角兵衛獅子という芸能がどういうものだったか、どのように運営されていたかなどの実態をよく調べた上で創られている作品だ。そのために社会、風俗がまったく変貌してしまった今日でも、観客に語り継ぐことができるのである。
親を失ったり、様々な事情ではぐれてしまった少女たちが微かな救いを願って芸を演じる健気な姿を、鮮やかな赤いさらしや羽毛がふわふわする毛やりなどを巧みに使って叙情的な余韻を漂よわせて描いている。手甲に脚絆、胸当てを着けた娘たちの姿がじつに初々しく、北国のピンと引き締まった透明な空気や白い息を吐く息遣いまでが活き活きと伝わってきた。
いたずらに細を穿って物語を創り、薄倖の少女たちに憐憫の情をもよおさせるようなことがない。振付家の志の高さを窺わせた舞台である。1963年初演と聞くが、当時としても芸術的問題意識がたいへん高かったのではないだろうか。そして新しい日本のバレエを創作しようという強い意欲が感じられる。日本の民衆の心に染み込んでいる芸能を取り上げて、西洋の文化から生まれたクラシック・バレエと融合して、西洋の一歩先をゆく新たな舞台を創ろうという気迫と意気込みが漲っていたのだ。
こうした創造へのあくなき強い意欲という観点からみて、今日の日本の振付家たちはこの舞台をどのように感じただろうか、いささかの興味を禁じ得ない。
橘秋子は、「戦争に負けたからバレエで勝つ」という、今日からみれば、端睨すべからざる決意を持ってバレエの創作にあたっていた、と聞く。新潟シティバレエ団では踊り継ぎ、中国公演も果たしたという、素晴らしいことである。

初演当時、人気、実力ともに絶頂期を迎えつつあった大原永子と森下洋子を獅子舞の姉妹に配して、既存の楽譜に頼ったわけではない、優れたバレエを創るための音楽家をも育て、オリジナル曲から発想して日本人による新しいグランド・バレエの創作にチャレンジしていた。そのフロンティアとしての烈々とした意欲は受け継がれなければならないのではないだろうか。
プログラムには「日本のバレエ界にとって歴史的価値の高い作品」と記されていたが、私は橘秋子の舞踊作家としての強い意欲と志の高さに深く感じるところがあった、と言っておきたい。
(2010年12月18日ゲネプロ 新国立劇場 中劇場)

tokyo1101e02.jpg tokyo1101e03.jpg

撮影:瀬戸秀美
※画像をクリックすると、大きな写真をご覧いただけます。