ワールドレポート ~世界のダンス最前線~

From Tokyo <東京>: 最新の記事

From Tokyo <東京>: 月別アーカイブ

関口 紘一 text by Koichi Sekiguchi 
[2011.01.11]

2010年のクリスマス・シーズンを彩った『くるみ割り人形』から

『くるみ割り人形』

毎年、クリスマス・シーズンとともに巡ってくる『くるみ割り人形』の季節。最近では、「年末に第九」よりも「クリスマスに『くるみ割り人形』」を楽しむ方々が増えてきているように感じられるのだが、実際はどうだろうか。
ともあれ、各バレエ団はこの季節にさまざまな工夫を凝らし、クリスマスをいっそう華やかに彩る舞台を繰り広げる。観客は自身とは異なったもうひとつのクリスマスを経験し、バレエ・ファンは『くるみ割り人形』をみて、一年間の舞台の思い出を整理し、次の年への期待を胸に納める大切な公演となる。

tokyo1101c01.jpg 撮影:鹿摩隆司

牧阿佐美バレヱ団、三谷恭三 演出・改訂振付『くるみ割り人形』
牧阿佐美バレヱ団の『くるみ割り人形』は、総監督三谷恭三の演出・改訂振付(プティパ、イワノフ版による)。ドロッセルマイヤーの甥が登場して、背後に原作のE.T.A.ホフマンの小説の世界を匂わせる、日本では数少ないヴァージョンである。この甥に扮した細野生が、地味ながらミステリアスな雰囲気を上手く出して踊った。適役であり、彼の存在によってネズミたちと対立して魔法を駆使するドロッセルマイヤーがいっそう生きて、このヴァージョンが特徴づけられた。
クララの高橋晴花がじつに可愛らしいかった。
王子役は主役デビューとなった宮内浩之。07年入団だが、若い男性ダンサーのレベルが高い牧阿佐美バレヱ団で抜擢されただけあってしっかり踊っていた。やや緊張気味だったのは無理からぬところだが、さらに軽さが感じられるといいと思った。これから大いに経験を重ねてほしい。
金平糖の精を踊ったのは青山季可。素晴らしいプロポーションで、動きは美しく花が感じられる。そして大きな動きには安定感があるのだが、細かい動きはまだ少々心許ないというか、もう少し配慮を行き届かせる余地があるのではないだろうか。そうすると全身が醸すただずまいがさらにいっそう柔らかく感じられると思った。伊藤友季子が抜けた今は、伝統ある牧阿佐美バレヱ団のトップバレリーナとして、その名前に恥じない大活躍を期待している。
(2010年12月12日 ゆうぽうとホール)

井上バレエ団、関直人 振付『くるみ割り人形』

井上バレエ団の『くるみ割り人形』は、スペイン出身でアメリカン・バレエ・シアターのソリスト、カルロス・ロペスをゲストに迎えて上演された。王子はもちろんカルロス・ロペス、金平糖の精はカナダ、アメリカ、デンマークなど留学経験の豊かな宮嵜万央里が踊った。
このカンパニーの『くるみ割り人形』は、ピーター・ファーマーの創った素晴らしい美術・衣裳とじつにしっくりと融和して、無駄なくきれいに仕上げられている。オープニングの紗幕に描かれた素敵な絵からして、チャイコフスキーのメロディをそのままヴィジュアルにしたかのようにファンタスティックで愛らしい。冒頭、ドロッセルマイヤーが登場して、秘かにクリスマスツリーを光らせてみせる演出もなかなか気が利いていて、観客を物語の世界に優しく誘ってくれる。子供たちの踊りや演技もよくコントロールされていて気持がいい。
雪の女王は岡本佳津子に師事し、デンマークでも学んだ田中りな、雪の王子はオールトラリア・バレエバレエ団、香港バレエ団で活躍した藤野暢央で、このヴァージョンらしい滑らかな踊りだった。
カルロス・ロペスの踊りは力強さあふれ、スピード感もあって爽快だった。宮嵜万央里も落ち着いて細やかな表現を入れて踊り、プリマとしての役割を果たした。
恒例のクリスマスソングのメドレーでは、カルロス・ロペスが大サービスの大きなジャンプを披露して観客を喜ばせた。
(2010年12月11日 文京シビックホール)

tokyo1101c15.jpg tokyo1101c16.jpg
撮影:スタッフ・テス株式会社 根本浩太郎

 

tokyo1101c02.jpg 撮影:鹿摩隆司

東京シティ・バレエ団、石井清子 構成・演出・振付『くるみ割り人形』
東京シティ・バレエ団の『くるみ割り人形』は恒例の地域ぐるみの公演。ねずみもチューねずみと小ねずみに分けるなど多くの子供たちに様々な役を与えてを舞台に上げ、地域のお店が会場にショップを開き、東京シティ・フィルハーモック管弦楽団が演奏し、「雪の国」に登場した江東少年少女合唱団がクリスマスソングを歌った。
振付は石井清子で、イワノフの原形によると但し書がついている。クララが夢の中で成長した自分を見ている、という設定でクリスマス・イブのパーティで踊ったコロンビーヌ、ピエロ、ムーア人形が、クララの夢の中ではかわいいベビィ人形になって活躍する。現実のクララは松本佳織、夢の中の成長したクララを橘るみ、くるみ割り人形を岸本亜生、コクリューシュ王子は黄凱、金平糖の女王が志賀育恵だった。なかなか妙を得たキャスティングでそれぞれがよく持ち味を発揮していた。中でもくるみ割り人形の岸本は主役としては初見だと思うが、爽やかな動きで生き生き踊って魅力的だった。ワガノワ・バレエ・アカデミーに留学経験があるそうだ。
そして志賀育恵は結婚していっそう精神的に安定したのだろうか、豪華な輝きを感じさせる。黄凱も志賀の動きをゆったりと受けて踊ったので良い舞台になった。
2幕のディヴェルテスマンではアラビアの踊りの若林美和の若さ溢れる踊りが良かった。キャンドルケーキから跳びだした猫耳を着けた子供たちもかわいかったし、ドロッセルマイヤーの出番は思いがけず少なかったが、楽しいクリスマス公演だった。
(2010年12月25日 ティアラこうとう大ホール)

tokyo1101c03.jpg tokyo1101c04.jpg tokyo1101c05.jpg
撮影:鹿摩隆司

NBAバレエ団、安達哲治 演出・振付『くるみ割り人形』
NBAバレエ団の『くるみ割り人形』は安達哲治演出・振付(プティパ、イワノフ版に基づく)。ドロッセルマイヤーがシュタルバーム家に連れて来たピエロ、コロンビーヌ、ハーレーキンが、クララと王子(くるみ割り人形)のお菓子の国にいたる旅を先導する。人形の精として子供たちの世界を見せてくれる。
お菓子の国のディヴェルテスマンの締めくくりは、クララと三人の人形の精のフラフープを使った楽しい楽しい踊り。どちらかというと出番が多いわりに踊りが少なく、お菓子の国では他のキャラクターたちの踊りに拍手してばかりいるクララの気持を汲んで、しっかりと踊らせるというツボを心得た演出だった。クララを踊った笹田ももこも振付家の趣旨に応えた。ジョフリー・バレエ・スクールに留学した経験があるそうだが、全体を通じて明るく純粋な子供の心を表した素敵な舞台だった。
王子はアルガイスフ・ハンガイ。モンゴル出身で新国立劇場バレエ団やニューヨークで踊ったダンサー。金平糖の精は佐々木美緒。オーストリアのRADで学び、フランスではパトリック・デュポンなどついてフランケッティのメソッドを修得したという。見事なプロポーションの美しいダンサーでアームスは柔らかく素晴らしい表現力を秘めているのが分かる。ただ主役としてどのくらいのキャリアを積んでいるか不案内だが、もう少し経験も必要な気がした。下半身がやや安定感を欠いているようにも見えたが、大きな可能性を秘めているだけに、さらに飛躍して欲しいと切望する。
(2010年12月17日 なかのZERO 大ホール)

tokyo1101c06.jpg tokyo1101c07.jpg tokyo1101c08.jpg
tokyo1101c09.jpg tokyo1101c10.jpg
撮影:鹿摩隆司

 

ベラーム・ステージ・クリエイト、多胡寿伯子 演出・振付・美術『くるみ割り人形』
毎年この時期に上演されている多胡寿伯子版『くるみ割り人形』はなかなか楽しい。原典のキャラクターを巧みにアレンジして1、2幕に自由に登場させて観客を楽しませてくれた。

tokyo1101c11.jpg 撮影:塚田洋一
クリスマス・イブに子供たちにプレゼントを配るのは、もちろんサンタクロース。順番に配っていたが、最後の女の子クララ(久保田麗羅)の分だけ足りなかった。するとすかさずドロッセルマイヤー(沢木順)がくるみ割り人形をプレゼントして慰め、クララをファンタジーの世界へと誘う。
クララは、今日の東京のどこででも見かける塾帰りのような少女でいつもペットのシロ猫と一緒。しかしドロッセルマイヤーの魔法でドレス姿に変身して、ネズミとおもちゃの兵隊のケーキを巡る戦いにに遭遇。ねずみを撃退したくるみ割り人形(黄凱)と素敵な旅に出る。素晴らしい雪の女王(伊藤範子)と雪の精たちが踊る雪の国へは、ドロッセルマイヤーと一緒にスケートでおとずれたクララは、人魚の国へはアクアラングを着けて潜り、たいへんな歓待を受けた。子供たちが何人も隠れられそうなとっても大きなスカートを履いたマダム・ボンボニエールは1幕のパーティで堂々と踊り回っていた。そしてお菓子の国まで追いかけてきたネズミとねじれ魔女を見事にやっつけたのは、のら猫のシロ。ここで観客は、クララがなぜシロ猫をペットにしていたか、理解したのだった。
金平糖の精は西田佑子、お菓子の国の王子は斉藤拓が踊った。怪我から復帰したばかりの西田は慎重に踊っているかのように見えたが、相変わらず美しい華やかな舞台だった。斉藤も安定した踊りで安心してみていられる舞台だった。
(2010年12月5日 ゆうぽうとホール)

tokyo1101c12.jpg tokyo1101c13.jpg tokyo1101c14.jpg
撮影:塚田洋一