ワールドレポート ~世界のダンス最前線~

From Tokyo <東京>: 最新の記事

From Tokyo <東京>: 月別アーカイブ

関口 紘一 text by Koichi Sekiguchi 
[2010.12.10]

言葉とダンスがさまざまな題材を描いたNEW DANCE HORIZON

執行伸宣 振付『桜の園』『枕詞に導かれた三つの踊り』
若松美黄 振付『元彼の結婚』安達哲治 振付『奇蹟の人』NEW DANCE HORIZON
NBAバレエ団
tokyo1012e01.jpg

NBAバレエ団が開催している創作バレエ公演NEW DANCE HORIZON。2008年に行われた前回は、俳句をモティーフにして4人の振付家が6作品を創ったが、今回は「言葉と身体…ものいうダンス」というテーマのもとに、三人の舞踊家がそれぞれゲストに俳優や歌手を招いて4作品を競演した。創作バレエの上演があまり活発とは言えない現在、意欲的な興味深い公演だった。

まず、執行伸宣の台本・振付による『桜の園』。
大きな砂時計を手にタイムキーパーと称する死神(時の使い)が登場して、とある病院の屋上で、車椅子に身を委ねた二人の老女の物語を紹介する。
老女Aは、夫を失ってから努力を重ねて会社を経営し子供を育てた。豊かな資産を使って大病院を建て、息子を院長にした。ゆとりのある老後を過ごしているが、息子はこの広大な土地を思い通り自由にしたい、という野心を時折うかがわせる・・・。
老女Bは年老いて意識が明瞭ではなく、息子も夫も次第に区別がつかなくなり、家族との心の交流も失われがちとなっている・・・。
ともにそれとなく望まれているかのような死を、人生の輝ける日々を表す桜の花への想いに映して描いた。老女Aの阿部百合子と老女Bの松本潤子が好演だった。熟練の演技にはやはり優れた表現力が秘められている。ダンスは言葉や演技では表現できない幻想の世界をうまく表していた。ただ少々、物語が多いような気もした。

tokyo1012e02.jpg tokyo1012e03.jpg tokyo1012e04.jpg
tokyo1012e05.jpg

執行伸宣はもう一作『枕詞に導かれた三つの踊り』を振付けた。
枕詞とは「語調を整えたり、後に続く語にかかって、これを飾ったりするはたらきをもつことばで、五音からなるのが普通」(角川古語辞典)とある。執行は三つの枕詞を採り上げた。
「まくさかる(真草刈る)」は「荒野」を導く言葉で、<荒野に1人立つ孤独感>を原嶋里会がソロで踊った。「ますかがみ(真澄鏡)」は「影・向こう」を導く言葉で、<もう一人の自分との出会い>を菅原翠子と関口祐美が踊った。「ゆくとりの(行く鳥の)」は「むらがる」を導く言葉で、<弱者がむらがって外に相対す
る>ことを原嶋絵里、菅原翠子、関口祐美が踊った。
言葉が表す、あるいは暗喩するイメージをダンスで表現する試み。もう少し勉強してからもう一回観たい、と思った。

ゲスト振付家として招かれた若松美黄は『元彼の結婚』を創った。
元彼の結婚式に出席したことから始まって、ブログにアップされた主人公の気持ち語る。そこで元彼に素直に「おめでとう」と言って気持ちの整理がつき、合コンで知り合った新しい彼を掴まえることができた・・・といったお話。これを歌とダンスで描いている。
パフォーマンスの構成、ダンスはすっきりと楽しく見られた。歌が必要だったかどうか、ミュージカル風の世界を展開しているのだから、効果的だったということだろう。
ただ率直に言って、元彼、合コン、ブログといった言葉、あるいはチカとかター君といった『青い山脈』にでもでてきそうな愛称には、少々、食傷してしまった。作者がこうした言葉とどのような距離をもって創作しているのか、理解できなかったからである。

tokyo1012e06.jpg tokyo1012e07.jpg tokyo1012e08.jpg

安達哲治の演出振付作品は『奇蹟の人』。ーあなたに世界をあげたいのーというサブタイトルと、本年生誕130周年を迎えたヘレンに捧げる、という言葉が添えられている。
2歳の時に熱病にかかり、聴力、視力、言葉を失ったヘレン・ケラーと家庭教師、アニー(アン)・サリバンの物語は、映画『奇跡の人』としても良く知られている。
安達は、この20世紀の最も感動的な啓示のひとつとも言うべき、ヘレン・ケラーとアン・サリバンの逸話を、「言葉と身体…ものいうダンス」をテーマとした創作の題材に選んだ。
冒頭、まだ荒々しく闇雲に行動するヘレン・ケラーが描かれるが、舞台上手にはさり気なく井戸が置かれている。それがヘレン・ケラーの無意識の闇の世界を切り拓くキーとなるオブジェとなっている。
ヘレン・ケラーを踊ったのは峰岸千晶。迸る井戸の水をその手に受けて、神の啓示を感じて世界を認識する、という難しい役を体当たりで演じ踊って感動的だった。浅井杏里が不屈の女性、アニー・サリヴァンを見事に表した。30年後のアニー・サリヴァンは執行佐智子が演じた。
さて、次回のNEW DANCE HORIZONはどんなテーマを掲げるのか、今から楽しみになる公演だった。
(2010年10月31日 東京芸術劇場 中ホール)

tokyo1012e09.jpg tokyo1012e10.jpg

撮影:鹿摩 隆司
※画像をクリックすると、大きな写真をご覧いただけます。