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佐々木 三重子 text by Mieko Sasaki 
[2010.12.10]

メータ+バレエが至福の時をもたらした〈奇跡の響演〉

Special Gala Performance Maurice Bejart “Petrouchka” “Ce Que l’Amour Me Dit” “Le Sacre du Printemps"
The Israel Philharmonic Orchestra Conducted by Zubin Mehta With Bejart Ballet Lausanne and the Tokyo Ballet
〈奇跡の響演〉ベジャール振付『ペトルーシュカ』『愛が私に語りかけるもの』『春の祭典』
ズービン・メータ指揮イスラエル・フィルハーモニー管弦楽団、モーリス・ベジャール・バレエ団、東京バレエ団

何という至福のひと時だったろう。メータ指揮イスラエル・フィルがオーケストラ・ピットに入り、モーリス・ベジャール・バレエ団と東京バレエ団がベジャールの代表作を上演した公演は、正に〈奇跡の響演〉と呼ぶにふさわしかった。

プログラムは東京バレエ団による『ペトルーシュカ』で始まり、モーリス・ベジャール・バレエ団による『愛が私に語りかけるもの』が続き、両者の共同による『春の祭典』で閉じられた。ベジャールは、毎回、著名なオーケストラに演奏してもらうわけにはいかないからと、テープ演奏を用いるのが常だったので、その意味でも貴重な公演だった。これはまた、主催者のNBSが来年創立30周年を迎えるのを記念して行う事業の第1弾として催されたものだった。

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最も感銘深かったのは『愛が私に語りかけるもの』。マーラーが壮大なスケールで自然の営みを描いたとされる「交響曲第3番」全6楽章のうち、最後の3楽章に振付けた1974年の作品で、日本では32年振りの再演となった。
独唱は世界の歌劇場で活躍するメゾ・ソプラノの藤村実穂子で、合唱は栗友会合唱団と東京少年少女合唱隊。
第4楽章〈人間が私に語るもの〉では、厳かに立ち上ってくるオーケストラの神秘的な響きと藤村の心に沁みる深みのある歌にのせて、「彼」のジュリアン・ファヴローと「彼女」のエリザベット・ロスが踊ったパ・ド・ドゥは、静謐で限りなく神秘的で、観る人を陶酔させた。

第5楽章〈天使が私に語るもの〉では、「子ども」の大貫真幹の快活な演技が生き、男は黄色の、女はピンクの総タイツの「子どもたち」が無邪気に戯れるように踊り、無垢で幸福な天上の世界を表出した。
第6楽章〈愛が私に語るもの〉では、「彼」を含む「大人たち」が次々に登場し、相手を変えながら様々なフォメーションでゆるやかに踊った。大人たちに囲まれもした「彼」は少年に惹かれ、少年と重なり合うようにして踊る。「彼」が少年を抱きこむと、静かに現れた「彼女」は2人を後ろからそっと抱きしめるように包み込んだ。3人が一体になった姿は、清らかな愛の結晶のように思えた。ベジャールは、マーラーの交響曲のテーマに呼応するように、人間の精神的な愛の営みを描いたのだろう。

これに先立ち上演されたのは、ストラヴィンスキーの音楽による『ペトルーシュカ』(1977年初演)。ベジャールはフォーキンの原作を現代に移し替え、人形ペトルーシュカを魔術師に操られる青年に、彼が恋するバレリーナを若い娘に、ムーア人を友人に置き換え、仮面や鏡の迷路を巧みに用いて、心の迷宮に引きずり込まれる青年の姿を描いた。青年の長瀬直義、若い娘の佐伯知香、友人の木村和夫、魔術師の柄本武尊は、それぞれ素直な役作り。東京バレエ団は、この作品を繰り返し上演しているだけにこなれた舞台だったが、いつもに比べてやや淡泊な印象を受けた。
 

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最後に上演されたのは、同じストラヴィンスキーの『春の祭典』(1959年初演)。この作品でも、ベジャールはロシアの異教徒の場景を描いたニジンスキーの原作を離れ、人間の野性や欲望、闘争心をむき出しにして提示した。
ベジャール・バレエ団と東京バレエ団から同数のダンサンーが出演して一緒に踊るのは初めてだけに、スリリングな場面も見受けられたが、総じてよく溶け合っていた。オスカー・シャコンは恐れおののく生贄を、井脇幸江は凛とした美しさをたたえた生贄を演じた。合同という形が互いを刺激したのか、いつも以上の躍動感と生々しさで迫り、爆発するような幕切れを迎えた。
最後に特筆しておきたいのは、メータ&イスラエル・フィルが奏でた精緻なアンサンブルや、ドラマティックに物語った弦や管楽器。二つのバレエ団による力のこもった演技と、これを支えたオーケストラの名演が相まって、ベジャールの作品に新たな命が吹き込まれたように感じたのである。真に得難い〈奇跡の響演〉だった。
(2010年11月4日 東京文化会館)

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photo:Kiyonori Hasegawa
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