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関口 紘一 text by Koichi Sekiguchi 
[2010.08.10]

ティボーのフランツ、田中りなのスワニルダ、ロマンティックで楽しい『コッペリア』

関直人 振付『コッペリア』
井上バレエ団
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10年ぶりの全3幕の再演となった井上バレエ団の『コッペリア』は、芸術監督の関直人の振付、ピーター・ファーマーが美術と衣裳、初演より参加している元パリ・オペラ座エトワール、シリル・アタナソフがコッペリウスに扮した。やはり、オペラ座バレエ団のプルミエールダンスール、エマニュエル・ティボーがゲスト出演してフランツを踊り、私が観た日のスワニルダを踊ったのは田中りなだった。

ティボーはさすがに登場して最初のステップを踏んだだけで、舞台全体にリズムを与え、コッペリウスが求めて止まない生命の息吹きを鮮やかに際立たせた。ただ1幕冒頭からスワニルダに嫌われてしまって麦の穂の占いも巧くいかないし、市長の懸命のとりなしも効果がなし。2幕では、梯子を使って首尾良くコッペリウスの部屋に忍び込んだが、すぐに薬入りのワインを飲まされ熟睡してしまってなかなか目覚めない。3幕ではようやく晴れて愛するスワニルダと踊ることになるのだが、コッぺリウスにコッぺリアを壊した弁償を請求されるなど、ヒーローとしてではなく、ごく普通の村の青年として描かれている。それだけに観客としては、ティボーをもっと思う存分に踊らせて欲しかった、という気持ちが少々残ったかもしれない。

岡本佳津子などに師事し、2008年にデンマーク王立バレエ団に研修した田中りなのスワニルダは、なかなか可愛いかったが、少し淡白にみえるところもあった。もう少し気持ちを全面に出してムキなってみせ、ユーモアがでるとさらにいっそう素敵だろうな、と思った。
関直人の振付は、レオ・ドリーブの変化に富んだ味わい深いメロディを尊重して、丁寧に作られていてファーマーのヴィジュアルと呼応して情感豊か。女性の感覚の細やかさを尊重した楽しい雰囲気の舞台だった。
タイトルにも謳われているが、やはりピーター・ファーマーの美術が素晴らしい。ディティールにいたるまでロマンティックなトーンを捉えていて、何万言を費やしても語れないのではないかとも思われる、得難い優しい存在感を醸成して観客は思わず溜息をつき、魅了されていた。
(2010年7月18日 文京シビックホール 大ホール)

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