ワールドレポート ~世界のダンス最前線~

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関口 紘一 text by Koichi Sekiguchi 
[2010.07.12]

ロック・ミュージックとダンスが捉えた今日の混沌『ポリティカル・マザー』

Hofesh Shechter:POLITICAL MOTHER
ホフェッシュ・シェクター『ポリティカル・マザー』
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ホフェッシュ・シェクターは、イスラエルのバットシェバ舞踊団の芸術監督オハッド・ナハリンの下で踊り、創作も発表している。同時にテルアビブでドラムとパーカッションも学んだ。ダンサー、振付家であり、ロック・ミュージシャンでもある。07年には、ロンドンのコンテンポラリー・ダンスの三つの主要な劇場、ザ・プレイス、サウスバンク・センター、サドラーズ・ウェルズ劇場が、シェクターの『In your rooms』を共同制作して、その期待の大きさが注目を集めた。
シェクターは現在、サドラーズ・ウェルズ劇場のアソシエイト・アーティスト、ホフェッシュ・シェクター・カンパニーは、英国南部のブライトン市のブライトン・ドームのレジデント・カンパニーである。

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『ポリティカル・マザー』は、シェクターの初めての長編ダンス。
オープニングはヒロイック・ファンタジィのヒーローのようなコスチュームの男が、舞台中央に登場、長剣を腹に突き刺すパフォーマンスを見せた。背景には三段のブラットフォームが設えられていて、最上段の中央にシンガーが立って、野獣の面を付け威嚇的に歌まかい、演説まがいの大声を発したりする。ダンサーたちは怯えたような抑圧された表現を見せる。いささか単純な構図に見えなくもないが、集団や民俗の体験には計り知れない深奥があるのかもしれない。
プラットフォームに四人のエレキギターを並べた大音量のロックが響く。意外とノイジィなサウンドではなく、どこか懐かしい気分にも聴こえる。やがてバッハの旋律も聴こえてくる。音楽や衣装などに出身のイスラエルにとどまらず、民族的伝統的なものを吸収して再構成しているようだった。
集団の高揚した雰囲気や愛し合うカップルの姿、フォークダンスのような群舞などが繰り広げられる。権力と対置された人々の中から様々な人間的な営為が生まれては消え、また再び生まれてくる。
そして「プレッシャーのあるところにフォークダンスがある」というフレーズがネオンで浮かび上がる。ラスト・シーンは、ジョニー・ミッチェルの歌----裏と表からみると人生も幻だといった歌詞----とともに踊られる。

今日の現実を混沌とした空間の中に、ロックミュージックとディスコ風ダンスの組み合わせによって捉えるようとした試み、といえるのかも知れない。しかし、大音量の音楽と比べると様々な意味をこめているらしいダンス表現は、やや力強さに欠けたのではないだろうか。
(2010年6月25日 彩の国さいたま芸術劇場 大ホール)

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Photos:(C)池上直哉
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