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佐々木 三重子 text by Mieko Sasaki 
[2010.05.10]

若手の爽やかな演技が光った『ザ・カブキ』

Maurice Bejart The KABUKI
モーリス・ベジャール『ザ・カブキ』 東京バレエ団
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東京バレエ団がベジャールの『ザ・カブキ』を2年振りに上演した。ダブルキャストの初日に由良之助と顔世御前に抜擢されたのは、20歳の柄本弾と17歳の二階堂由依。柄本の精悍な踊りと二階堂の哀しみを湛えた演技が相まって、新鮮な余韻を残した。参考までに、2日目にこの役を踊ったのは、既に海外で実績のある後藤晴雄と上野水香だった。
『ザ・カブキ』(1986年)は、『仮名手本忠臣蔵』を題材に、忠誠心を描いたドラマティックな作品。日本の伝統芸能と武士道の精神を、バレエという西洋の伝統芸術の手法を用いて現代の芸術に結実させたと、海外での評価も高く、海外での公演数は110回に達している。この夏の欧州公演でも上演の予定で、ミラノ・スカラ座での『ザ・カブキ』は東京バレエ団の海外公演通算700回に当たるそうだ。今回の舞台からは、記念すべき公演に臨む意気込みと共に、ベジャール作品の伝統を若手に引き継ごうという意欲が感じられた。

『ザ・カブキ』は、現代の若者のリーダーである青年が過去にタイムスリップして由良之助となり、四十七士のリーダーとして主君の仇を討ち、切腹して果てるまでを、プロローグ付きの9場で描いている。ベジャールならではの独自性や歌舞伎の手法を活かした演出や所作は随所に見られるが、密度を高めた「山崎街道」や、一列に並んだ家臣たちがいっせいに連判状に血判を押すシーン、心身を清めるためか赤ハチマキに赤褌で歩を進める義士たち、哀感をたたえた「雪の別れ」、躍動感溢れる討ち入りと、魂の浄化を象徴するような切腹で終わる幕切れは、とりわけ印象深く、ベジャールの解釈の深さを示してもいる。

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さて、主役の柄本だが、引き締まった身体の持ち主だけに勢い良く走り回り、弾力性に富んだジャンプをみせ、着地もピタリと決める。初役にもかかわらず、要所に置かれたソロで複雑な心境を細やかに表現していた。中でも、塩冶判官が切腹した後、主君の無念に思いをはせ、不安やためらいを克服して仇討ちを決意するにいたる心の変化を表わすソロが見応えがあった。現代の若者たちのリーダーとしてのあり方や、判官から遺言を託される場面や一力茶屋での遊興にふける場面の演技には、まだ硬さが残る。だが、舞台を重ねれば、おのずと貫禄も備わってくるだろう。伸び盛りの柄本だけに、今後に期待したい。
二階堂は、172センチの柔軟な身体と、まっすぐに伸びた長い脚に恵まれている。激しい感情表現を求められる役ではないこともあり、「兜改め」では楚々とした立ち振る舞いを、「城明け渡し」などでは透明感をたたえた演技を見せた。出色だったのは「雪の別れ」で、仇討ちの決意を明かそうとしない由良之助を責め、決起を促すように白いタイツの脚を高く振り上げ、体をしなわす姿からは哀感も漂ってきた。昨年入団したばかりの未知数のバレリーナだが、素質は十分。古典作品をどのようにこなすか、見てみたいと思わせた。
ほかに、抑制した演技を見せた判官役の長瀬直義や、悪辣さを表出した師直役の松下裕次。伴内役の氷室友はよく健闘していたが、もっと憎々しさを出しても良かった。バレエとは異なる独特の所作にまだ不慣れなダンサーも見受けられたが、場数を重ねれば解決されるだろう。『ザ・カブキ』は東京バレエ団しか上演できない作品。ベジャールの貴重な遺産として、大切に伝えて欲しいと思う。
(2010年4月24日、オーチャードホール)

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撮影:Kiyonori Hasegawa
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