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佐藤 円 text by Madoka Sato 
[2010.03.10]

橋本直樹の美しいジャンプと荒井祐子の艶ややかな表現に感銘

熊川哲也 演出・再振付『海賊』
K-Ballet Kampany
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K-BALLET COMPANY三度目の上演となる『海賊』。プログラムの解説によると初期の作品より手が加えられ、演出上ストーリーがわかりやすくされたとのこと。有名な作品だが登場人物が多く、その関係性がわかりにくいこの作品を熊川哲也がどのようにまとめあげているのかを注目して見た。
まず、この作品は舞台美術が各場面ごとに統一されながら豪華で素晴らしいことに目を奪われる。幕が開くと紗幕にセピア調の海賊の航海図が描かれており、観客に冒険物語が始まる予感をさせる。そして、紗幕の奥より現れる二隻の海賊船は博物館の展示物のような精巧さで、驚かされる。コンラッド一味が敵対する海賊と争い財宝を奪い取る様や、帆が嵐になぎ倒される船の様子は迫力満点だ。
その後現れる洞窟、パシャのハーレムなどリアルに作りこまれた装置は、この舞台を盛り上げる大きな要素となっており、舞台美術を見るだけでも充分に価値がある。

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登場人物たちはそれぞれ役割がはっきりしている。海賊の首領がコンラッド、忠実に仕えているアリ、少し距離を置いて隙あらば権力を奪い取りたいようなビルバンド。この三人の関係性が全幕を通して一貫して描かれており、メドゥーラとグルナーラは友人ではなく姉妹という設定となっていた。
当日、舞台で最も輝いていたダンサーはアリを演じた橋本直樹だろう。終始コンラッドに仕える忠実な僕として活躍。前に出すぎないが本人の放つ野性的なオーラや謎めいたところに、観客はいつの間にか魅了されてしまう。テクニックも素晴らしく、美しいラインを保ったジャンプに多くの拍手が送られていた。カーテンコールの最後にも、高いグランジュッテを披露するファンサービスを見せてくれた。彼が今後プリンシパルとなってK-BALLET COMPANYを引っ張っていくのではないだろうか。

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また、グルナーラを演じた荒井祐子が美しかった。ベテランらしい安定したテクニックと、肩甲骨から滑らかに動くアームスが魅惑的であった。何といっても奴隷商人ランゲデムと踊ったグラン・パ・ド・ドゥで見せた表現力に感心した。グランド・バレエのグラン・パ・ド・ドゥといえば、恋人同士や婚約者、姫と王子といった設定が多いが、このパ・ド・ドゥは自分を売り飛ばそうとする奴隷商人、いわば敵と不本意ながら踊るという難しい設定。楽しそうに踊るわけにもいかない。荒井のグルナーラは、ランゲデムに荒々しく扱われ、パシャに怯えながらさらりと難しいパをこなしていく。元来グルナーラが持つ容姿の美しさと気高いしぐさが、怯えていることによって、よりいっそう彼女に艶やかさを与えていた。物語の設定を盛り上げて美しく踊るグルナーラという解釈に感銘を受けた。
主演のメドゥーラとコンラッドは、東野泰子と遅沢佑介。東野は非常に清楚なメドゥーラを見せてくれた。美しさとゆるぎないテクニックは安心して見ることができる。遅沢もスタイルの良さから動きの一つ一つが大きく見える。二人のパ・ド・ドゥはどの部分を撮っても絵になるラインの美しさであった。しかし、二人ともその品のある容姿が、『海賊』という演目には少々邪魔をしていたかもしれない。艶やかな女らしさを見せた荒井のグルナーラや、野性的な魅力を持つ橋本のアリと比べると、表現が少しおとなしいようにも感じてしまった。容姿が美しく端正な二人が色々なタイプの役柄をよりいっそう演じ分けると、演出効果がさらに際立つのではないかと感じられた。
(2010年2月27日 Bunkamuraオーチャードホール)