ワールドレポート ~世界のダンス最前線~

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佐藤 円 text by Madoka Sato 
[2010.03.10]

二本足で立つことのバランスを考えさせられた『Against Newton』

岩淵多喜子 振付『Against Newton』
横浜ダンスコレクションR
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横浜ダンスコレクションRの受賞者公演が一連のイベント最終日に行われた。
受賞者として作品を披露したのは2001年き「若手振付家のための在日フランス大使館賞」「(財)横浜市文化親交財団賞 」を受賞している岩淵多喜子。ラバン・ダンスセンターに学んだ後、国内外で活躍中である。
今回のダンスは2003年に初演した『Against Newton』
「まっすぐ立つ」という人間が当たり前に行っている姿勢を保つには、重力に反する筋力やバランスが必要なのだということを感じさせる作品だ。
出演は太田ゆかり、勝部ちこ、岩淵多喜子の三名。衣裳は長袖のTシャツに裾がワイドになっているパンツスタイル。部屋着かヨガウエアのような雰囲気だ。舞台センターには4本の柱があり、柱の中がぼんやり光を放っている。直立しているということの象徴のようにみえる。1人のダンサーが柱の前に立っている。もう一人舞台上に現れると新たに表れたダンサーの動きをもう一人が「ストップ」と言って静止させる。「曲がってる?」という問いかけ。
ピアノ曲が流れ、身体の関節を一ずつづらしていくような動きが始まる。パントマイムやモダンダンスに必要とされる練習のように、上体だけ右に、左に、前に、後ろにとずらしていく。色々な関節をずらしてみる。一つ一つの体の部位を確認しているかのようだ。
やがてダンスとして展開してゆき、もっとも面白みを感じたのは、3人のうち一人がまるで人形のように自律して立てなくなってしまう動きのフレーズだ。一人がある動きからストップし、次第に重力に負けるように、支えのない人形のように床へ倒れそうになる。そこを他の二人がなんとか支えてバランスを取らせようとする。手を離すとまたゆるんだ部分から倒れこみそうになり、支えられるといった動きの組み合わせだ。やがては三人が引っ張り合ってバランスを保とうとするが崩れ落ちる。

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三人が床に崩れてしまうと今度はなかなか立ち上がることができない。引力によって床に張りついてしまったようだ。なんとか床を這いつくばり、勢いをつけて重い腰を上げようとするけれど、結局床に戻ってしまう。激しく床に打ちつけられる。ダンサーたちは肘やひざにサポーターをしているのが時々見え隠れしていたのだが、床に打ちつけるようなこの動きを始めた時に、サポーターをしていることに合点がいった。恐らく練習でもたくさんのあざを作ったであろうと思われる重力に勝てないその動きは、まるで強力な磁石で床に身体が引き付けられているかのようであった。
声を掛け合って立とうする3人。息も荒くなり、間を置かないと続かないといった風で時々休憩している。その間が絶妙で面白い。だんだん繰り返していくうちに一人が立てそうになる。また、立ちそうになる・・・とだんだん立つコツをつかんでいく。そして最後には3人とも立ち上がることができたのだ。
人間がいかに筋力を使って二本足で立っているか、物体としてはアンバランスであるかを体現して見せるダンスであった。

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他にヨーロッパの事情と題して、フランス・スイス国籍のPerrine Valliの『Série』
とフォーサイスカンパニーに所属するFabrice Mazliahの『HUE score-6』が上演された。
『Série』は幼少期の記憶をもとに創作されている6つのソロのうち2つのパートが上演された。空間の境界線とダンサーの心の歩みとしての線がテーマとなっており、床に張られた四角いテープの枠の中でゆっくりと、しかし止まることのないしなやかなダンスを見せてくれた。2つ目のパートでは床に白線を縦に5本貼り付けていきその上を歩くと不思議なことに白線がちぎれていった。恐らくロールペーパーだったのだろうが発送が面白い。ちぎれた白い線の上を床を掃除するかのように動き回り、だんだんとちぎれた線はセンターに集められていった。心の中の散らばった考えが、思考することで一つの解決策を見出したかのような表現であった。
『HUE score-6』はダンスというよりはパフォーマンスだった。何も装置のない舞台上にTシャツにワークパンツという普段着のまま現れた男性。ポケットからスプーンを取り出し、足にのせ蹴りあげる。対角線上に飛んで行ったスプーンを拾いに行き、今度は反対方向へ床を滑らす。距離や通過したラインを確認しながら、蹴りあげては滑らすという行為を繰り返す。次第に動きが速くなり拾おうとすると足先でスプーンを蹴飛ばしてしまい、物体なのに生き物を扱っているかのように思う通りに行かないような、スプーンと遊んでいるかのような動きが繰り返された。音楽は全く使われなかったので、少々間延びしてしまう感があったが、最後、舞台袖に消えた男性がわざとスプーンを落とし「カシャーン」と音を立てて舞台を締めくくった。
(2010年2月11日 横浜赤レンガ倉庫1号館3Fホール)

(C)塚田洋一
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