ワールドレポート ~世界のダンス最前線~

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関口 紘一 text by Koichi Sekiguchi 
[2010.01.12]

09年年末に踊られた『くるみ割り人形』から Part 2

THE NUTCRACKER 『くるみ割り人形』
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三谷恭三:振付『くるみ割り人形』/牧阿佐美バレヱ団

牧阿佐美バレヱ団の『くるみ割り人形』を、金平糖の精/坂本春香、雪の女王/日高有梨、王子/清瀧千晴、クララ/大島栞奈、というまったくフレッシュなキャスティングで観た。

まず、ボリショイ・バレエ団に研修に行っていた清瀧千晴がその成果を感じさせた。雪の国のシーンではすっきりとした立ち居振る舞いで、女王の日高有梨ともども透明感を出した。落ち着いた舞台だったので、サポートも行き届いていたのではないだろうか。グラン・パ・ド・ドゥでも、モスクワ行きの前に比べて一段と逞しくなった身体を操って伸びやかに踊った。柔軟性には従来から定評のあるところだが、いっそう表現力が増したと思われた。

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金平糖の精を踊った坂本春香は豊かな将来性を予感させるダンサー。まだキャリアが少ないためか、表情が固く動きが少しぎこちなく感じられてしまう。上半身と下半身のバランスというか、腕と脚の一体感がやや弱いのかも知れないが、まだ使われていない表現力が身体から溢れ出そうなくらい。彼女自身も清瀧とのパートナーとしても、今後が大いに楽しみなダンサーである。
クララを踊った大島栞奈も良かった。凄く気持ちを素直に表すことのできる好感のもてるダンサーだった。

花のワルツには、伊藤友季子、京當侑一籠、今勇也、菊地研などが顔揃える豪華キャスト。また他日公演ではドロッセルマイヤーには、オリジナルキャストの本多実男以外に、小嶋直也に踊らせるなど、キャスティングに工夫を凝らしている。豊富なソリスト陣を擁する牧阿佐美バレヱ団ならではの『くるみ割り人形』である。
(2009年12月12日夜 ゆうぽうとホール)

関直人:振付『くるみ割り人形』/井上バレエ団

井上バレエ団の関直人振付、ピーター・ファーマー美術の『くるみ割り人形』第1幕のクリスマス・イブのパーティの子供たちは、ほんとうに楽しそう。ドロッセルマイヤーもいろいろな手品から、人形劇、ハーレーキン、コロンビーヌの踊りからくるみ割り人形のプレゼントまで、もりだくさんのサービスで子供たちをたっぷりと楽しませる。子供たちも元気いっぱい跳び回り、喜びを表す。
ネズミとの大戦争に辛うじて勝って、くるみ割り人形は王子となり、雪の国のシーンでは雪の女王と雪の王子が踊る。第2幕では金平糖の精と王子がグラン・パド・ドゥを踊り、花のワルツでは男性と女性のソリストがコール・ドともに踊る。そしてもちろん、ギゴーニュおばさんまで含めて六つのデヴェルティスマンも踊られる、という具合にたくさんのソリストの踊りが、入れ替わり立ち替わり楽しめる構成になっている。

王子を踊った秋元康臣は観るたびに逞しくなり、力強く伸びやかな踊りだった。金平糖の精は田中りな。きれいに踊りを整えていたが、パートナーシップももう少し工夫して欲しい。踊り込んで経験を積み舞台全体をひっぱていくようなダンサーにぜひ成長してもらいたい。
いつもこのバレエ団の公演の時に感じさせられるのだが、ピーター・ファーマーのロマンティックなイメージがほんと美しく、この作品の核心を表していると思われる。
(2009年12月12日昼 文教史ビックホール・大ホール)

石井清子:振付『くるみ割り人形』/東京シティ・バレエ団

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東京シティ・バレエ団の『くるみ割り人形』は、レフ・イワノフ振付の原典に準拠して、チャイコフスキーの音楽により石井清子が構成・演出・振付けを行っている。
ドロッセルマイヤーがクララの夢を演出しているのだが、それはクリスマス・イブのパーティの頃から既に始まっている。アトラクションとして子供たちに見せた人形劇のキャラクター、ピエロ、コロンビーヌ、ムーア人形が、クララの夢の中では狂言回しとなってストーリーが展開する。この三人のキャラクターを子供が演じているところがミソとなっていて、愉快でたのしい子供向きの舞台になっている。ネズミとの大戦争の様子は、この三人のキャラクターが金平糖の精とコクリューシュの王子の前で演じて見せる。
金平糖の精の橘るみは丁寧にきちんと踊った。コクリューシュ王子に扮した黄凱もよく落ち着いて正確な踊りだった。完璧にみえるペアだったが、音楽との融合というか一体感という点ではもう一歩だけ努力してほしいという印象を受けた。
このカンパニーの『くるみ割り人形』はたいへん良くまとまっていて、なかなか洒落た,特色もよくでている。なによりもイワノフ版に準拠して、子供の視点が失われていないことが楽しいし、子供たちの踊る姿がいっそう可愛らしく感じられるのである。
(2009年12月18日 ティアラこうとう大ホール)

撮影:(C)寺田真希
※画像をクリックすると、大きな写真をご覧いただけます。

安達哲治:振付『くるみ割り人形』/NBAバレエ団

NBAバレエ団のレパートリーには『くるみ割り人形』の二つのヴァージョンがある。ひとつはオリジナルのレフ・イワノフ版を復刻したもの。もうひとつが今回上演された芸術総監督安達哲治振付の『くるみ割り人形』である。
『くるみ割り人形』は、前述したように子供の世界を描いたバレエである。だから『白鳥の湖』や『眠れる森の美女』とそのまま比較しても意味はない。チャイコフスキーの音楽は誰が聴いても子供の世界を謳っている。
ピエロ、コロンビーヌ、ハレーキンなどの三人は子供世界の妖精が人形として現れたもの。ちょっと大きいのが難点だけれども、少女クララの夢が子供の妖精に導かれるのはもっともなことで納得がいく。クララの力添えによってねずみの呪いが解け、くるみ割り人形のが王子になる。それをお菓子の国の女王、金平糖の精が祝福して、王子と華やかにグラン・パ・ド・ドゥを踊る。この作品では、子供の世界と大人の世界はじつによくバランスがとれている。
王子は秋元康臣だが、最近の上達ぶりは目をみはるものがある。昨年まで感じられた線の細さは、まったく影を潜め、むしろ力強ささえ感じさせる。ダンサーにとって多くの本番の舞台を経験することがいかに大切か教えてくれているようだ。
金平糖の精は関口純子だった。若さと初々しさを残す踊りだったが、同時に少しぎこちなさも見受けられた。身体はしっかりとして気持ちもしっかりとしているように見えるダンサーなので、キャリアをどんどん重ね、表現の細かい部分にまで配慮を行き届かせて頑張って欲しい。次に見せてもらう公演では、ぜひ飛躍した舞台姿をみせてほしい。
(2009年12月19日 なかのZERO大ホール)