立方体の上で女性ダンサーが行った様々なポワントワークの動きに合わせて、男性ダンサーがマイクを立方体上で動かし、音を合わせる遊びでは、女性ダンサーは実に楽しそうなのに対して、男性ダンサーは真剣そのもの。そう、遊びは真剣に取り組むからこそ面白いのだ。
一組の男女（フロラン・メラック、シルヴィア・サン=マルタン）が抱き合ったまま寝転んで回転しながら楽しげに笑い合って登場するシーンもエクマンの遊び心が感じられる。二人は戯れるように流麗なパ・ド・ドゥを繰り広げる。一方で、男性ダンサー二人による、いたずらっ子同士のように息の合ったデュエットもあった。舞台に目を凝らすと、エクマンが創り上げた様々な生き物が宇宙を浮遊するようにゆったりと歩いている様が実にユニークだ。中でも、小枝を2本つけたヘルメットを被った女性ダンサーたちは、"フナーフ"と名付けられたキャラクターがポワントで行進したり、アチチュードジャンプで軽やかに跳躍する。その様子は、彼女たちが別の惑星から来た雌鹿のように見えて不可思議で幻想的なシーンのひとつだ。
もっとも驚きに満ちたシーンは、やはり6万球もの緑のボールがダンサーたちをめがけて舞台上から雨のように降り注く瞬間だ。ボールは床に散らばり、オーケストラピットへとなだれ込む。ダンサー達はボールで埋め尽くされた床にスライディングしたり、ボールの海と化したピットに向かって飛び込んだりと楽しそう！
第2幕では、グレーの服の大人達がルーティンをくり返す様が描かれる。多数のダンサーが密集し、椅子に腰掛けて、忙しげに体を動かす。淡々とした動作が延々と繰り返される。仕事に追われる彼らの様子は、遊ぶ時間すらない現代の大人たちを痛烈に風刺している。エクマンは「人生で本当に幸せを感じた瞬間を私自身で振り返ってみると、誰かと本気で遊んでいたときなのです」と語っている。パリ・オペラ座のダンサーを本気で遊ばせる壮大なエンターテイメント作品を作り上げたエクマンは、遊ぶことの重要性を真面目に訴える。観客がダンサーたちと一つになって楽しむフィナーレも格別に楽しい。パリ・オペラ座バレエのコンテンポラリー作品を生で体験できる貴重な舞台を、どうかお見逃しなく！