ワールドレポート ~世界のダンス最前線~

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佐藤 円 text by Madoka Sato 
[2009.11.10]

絵画とダンスが融合した、北村真美『TABLEAU』

北村真実:振付『TABLEAU』
mami dance space
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東京・五反田にある「東京デザインセンターガレリアホール」という、ダンス公演ではあまり聞き覚えのない会場で「mami dance space TABLEAU」は上演された。
本来は展示室として使用されるスペースに、仮設の客席を作るといった趣向だ。
客席はダンサーが踊るスペースを挟んだ両脇(舞台でいうところの上手と下手に)別れて段差をつけて組まれている。入口を背にして正面に、通常では絵画など展示するであろう緩やかに湾曲した壁があり、その手前の広い空間が舞台である。入口のスペースとは数本の柱で区切られている。
どこが正面なのだろうか、と思いながら入り口に向かって下手側から鑑賞した。

舞台は食事になぞらえた前菜の「一瞬のオブジェ」から始まる。
中央には長い長方形のテーブルがぽつんとあるだけ。力強いピアノの音が鳴り響きダンサーたちは観客が入ってきた入口スペースから柱の間を抜けて舞台スペースへ次々と飛び込んできた。
13人の男女は生成りのシャツとパンツに黒いジャケットやコートを羽織っている。
頭に大きなリボンをつけた女性、ハンドバックを下げている者もいる。テーブルを囲んでポーズを作る。
まるでダ・ヴィンチの『最後の晩餐』のようだ。一人のダンサーがおもむろにテーブルに飛び乗り、一つのタイミングにあわせてそれぞれがストップモーションでポーズをつくる。しばらくすると動き出し、テーブルごと次のスペースへ移動する。そしてまたわれ先にとテーブルに上るものが現れ、ストップモーション。何枚もの絵画を次々に見せていくような構成だ。
客席は二方向に分かれているが、どちらが正面といったことはなく立体的な絵画のパフォーマンスといったところだろうか。
一連のストップモーションのシリーズが終わると音楽がガラリと変わり、何やらラジオのチューニング音のよう。
ダンサーたちは一人ずつ好きな食べ物を声に出す。「ワイン」「チーズ」「パン」といった風に。そしてダンススペースを歩きながら去ってゆく。プログラムに記された「前菜」の終了。
 

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続いて「無機質な絵をドラマに」。メインの始まりである。
モンドリアンの絵画をイメージして、赤・青・黄と黒のコンビネーションの衣裳に着替えたダンサーたちが短いフレーズの同じ振付を、左右対称、対角線上など直線的に、タイミングをずらしてと次々に現れては去っていく。
シンプルモダンな平面絵画が、動き出したような間隔を覚える。
ダンサーの動きは息もつかせぬ勢いで、観客は飽きることなく空間を楽しむことができる。
すると、主宰の北村真実が白のドレスで「白から一筆」をゆったりと踊りだした。
フラメンコギターのような静かなる情熱を感じさせる音楽と、北村の流れるような一筆のダンスが箸やすめのようだ。
「ぶつかる色」ではタイプの異なる男性ダンサー3人が絡み合いぶつかりあう。衣裳はみなモノトーン系であるが、ダンサーの動きが力強く、柔らかく、ストイックといったような異なるモチーフで踊られて、踊りの質=色と受け取ることができた。
「セピアの自画像」はパントマイムのような構成で、年配の男性ダンサー二人が椅子を頭に載せてゆっくりとあらわれる。
つぎに一人が頭に載せた椅子を落とさずステップを踏む。するともう一方がより複雑なステップを踏む。上手下手に分かれ、観客ともども、敵が次はどんな曲芸を見せるのか? とわくわくする。
「野草の庭」は、若手女性ダンサー5人がまるで野の花そのもの様な衣裳で現れた。
ピンク、黄色といったカラフルなオーガンジーに大きくギャザーを寄せたようなふわりとしたドレスを身につけ飛び回る。
音楽はエレクトリックでポップなもので、セピアの世界からあっという間に色とりどりの春の世界に変わってしまった。
 

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「大理石に描く」では、吹き抜けになっているスペースをうまく使い、二階部分にいるダンサーの影をダンススペースの壁に映しだした。
Aラインのワンピースをまとい、二人のダンサーが大きなムーブメントで踊る。まるで石の床を滑るような動き。そして、石のひんやりとした冷たさを感じる。絵画というより彫刻のようであった。
「2009」で北村真実と古賀豊が巧みに絡み合うデュエットをみせた。北村のダンスは洗練されていて、身体の隅々がよく動き、そのラインの美しさに目を奪われた。複雑なリフトが多くみられたが、二人の息がよく合っていたので安心して描かれる身体のラインを鑑賞することができた。

「最後の絵」はデーザートとして上演。前菜の「一瞬のオブジェ」同様のスタイルで全員がテーブル上のスペースを奪いあい、ストップモーションで絵画の瞬間を見せる。そして、ダ・ヴィンチの『最後の晩餐』を模したポーズで舞台を締めくくった。

さまざまなタイプのダンスが紹介され、それは同時に観客にさまざまな絵画を鑑賞するイメージを与えた。
ダンススペースではない会場で柱や壁をうまく利用した演出だった。また、照明も工夫されており新しいダンス絵画『TABLEAU』が完成したと感じる公演であった。
(2009年10月24日 東京デザインセンターガレリアホール/撮影:近藤信治)