ワールドレポート ~世界のダンス最前線~

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関口 紘一 text by Koichi Sekiguchi 
[2009.10.13]
瞬く間に秋も深まって、2010年のほうが近くなってしまいした。「世紀末、世紀末」と言っていたのは、今は昔。これから世紀末を体験する人はあまりいないでしょう。Dance Cubeは2002年末から活動しているから7歳。やんちゃ盛りというところですが、新世紀のダンスとともに歩んできましたことになります。既に21世紀のダンスの第一歩をまとめる時が近付いているのかもしれません。時の流れに棹さしたら、角が立ってしまうでしょうけども。

クーパー、ケンプ、ヤノウスキーによるストラヴィンスキー『兵士の物語』

Royal Opera House Production STRAVINSKY'S "THE SOLDIER'S TALE"
英国ロイヤル・オペラ・ハウス版 ストラヴィンスキー『兵士の物語』
"THE SOLDIER'S TALE" Dircted & Choreographed by Will Tuckett
ウィル・タケット演出・振付『兵士の物語』
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マシュー・ボーン版『白鳥の湖』でスワン/ストレンジャーに扮して、デモーニッシュなエロティシズムの魅力で圧倒的な人気を博したアダム・クーパーと、やはりボーンによる『ザ・カー・マン』の破滅的な演技で鮮烈な印象を残したウィル・ケンプ。さらにロイヤル・バレエのプリンシパル、ゼナイダ・ヤノウスキーと、元ロイヤル・バレエの才気あふれるダンサー、マシュー・ハートが共演した、ストラヴィンスキーの『兵士の物語』。
ROH2が制作し、2004年にロイヤル・オペラ・ハウスのリンブリー・スタジオで初演されたこの『兵士の物語』が、東京の舞台でも幕を開けた。
アダム・クーパーは兵士、ウィル・ケンプはストーリーテラー、マシュー・ハートが悪魔、ゼナイダ・ヤノウスキーは王女と妻の二役、というオリジナル・キャストである。

物語は、休暇を得た兵士が故郷に帰る途中、悪魔に出会い大切なヴァイオリンを売り渡し、未来を見ることができる本を手に入れる。悪魔に頼まれてヴァイオリンの弾き方を教えるために悪魔の家に3日間だけ立ち寄る。しかし悪魔のもとで過ごした3日間は、現世では3年間だった。故郷で待ってくれているはずの婚約者は結婚して子供までいた。
兵士は、悪魔の囁きを聞き入れて大金持ちとなり、ヴァイオリンを買い戻すが、もはや兵士はヴァイオリンを奏でることができなくなっていた。兵士は絶望して本もヴァイオリンも捨てて去る。
当て所ない旅をしていた兵士は、眠ることも食べることも話すこともしないという病気の王女を治すと、彼女と結婚できると聞きつける。一計を案じた兵士は、悪魔と賭けをして得た金すべてを負ける。そして自由を得た兵士はヴァイオリンを弾くことができるようになって、王女の病を治して結婚する。やがて王となり兵士は幸せに暮らしていたが、故郷が懐かしくなり、もうひとつの幸せを求めると、再び悪魔が姿を現す・・・というもので、アレクサンダー・アファナシェフの原作の大筋は変えていない。
 

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しかし、マシュー・ボーンの『シンデレラ』や『シザー・ハンズ』ほか、そしてクーパーの『危険な関係』、タケット『七つの大罪』などの美術を手掛け、時には演出もするレズ・ブラザーストンは、ナイトクラブ風のかなり思いきったセットを創った。舞台中央には金色のパイプと血のような赤や原色に塗られたケバケバしく彩られたステージがあり、左右は回廊のようになっていて、両サイドには楽屋らしき小部屋ある。
オープニングでは、ストーリーテラーのケンプが両サイドの楽屋にいるクーパーとヤノウスキーを観客に紹介するというなかなか洒落た演出だった。
クーパーは言うまでもなくロイヤル・バレエの元プリンシパルだが、アーツ・エデュケーショナル・スクール時代に演技や声楽を学んでいる。ケンプはロイヤル・バレエのアッパー・スクール出身でマシュー・ボーンに鍛えられた。ともにダンスと演技の能力を駆使して、表裏一体的な存在感をみせた。特にケンプは格上のクーパーと四つに組む熱演だった。
猫髭を着けたり、毛むくじゃらの脚をみせたり、マシュー・ハートは半獣身のような悪魔を評判通り快演。演出のタケットが自慢するくらい観客にインパクトを与える強烈な印象を残した。
ヤノウスキーは踊りが美しく、特に病が癒えてクーパーと二人で踊るシーンは、コヴェント・ガーデンのステージを観ているかのようだった。
クーパーの兵士は見事だったし存在感もさすがと思わせた。しかし、キャラクター的には悪魔のほうが似合っているのではないか。
そしてやはり、ダンサーによるステージらしく音楽性が豊か。ジャズの影響を受けたといわれるストラヴィンスキーの音楽とストーリーテリングとが上手くマッチしていて、上質のラップミュージックを聴くような快楽があった。ミュージカルとはまた異なったダンサーによるおもしろいステージを堪能した。
(2009年9月12日 新国立中劇場/撮影:瀬戸秀美)

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