ワールドレポート ~世界のダンス最前線~

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佐々木 三重子 text by Mieko Sasaki 
[2009.05.11]

プラテル校長率いるパリ・オペラ座バレエ学校が
バール、マルティネス、ノイマイヤー作品を上演

Ecole de Danse de l’Opera National de Paris
Jean-Guillaume Bart: “Peches de Jeunesse”
Jose Martinez: “ Scaramouche”
John Neumeier:” Yondering”
パリ・オペラ座バレエ学校
ジャン=ギヨーム・バール振付『ペシェ・ド・ジュネス』
ジョゼ・マルティネス台本・振付・空間演出『スカラムーシュ』
ジョン・ノイマイヤー振付・衣裳・照明『ヨンダーリング』

ギエムやルグリら綺羅星のようなダンサーを輩出してきたパリ・オペラ座バレエ学校が11年ぶりに来演し、生徒たちのレベルの高さを改めて印象づけた。
1713年、ルイ14世により設立された世界初のバレエ学校だが、近年、1972年から30年以上にわたり校長を務めたクロード・ベッシーの下で飛躍的な発展を遂げたのは周知のとおり。2004年に後を継いだのは、パリ・オペラ座バレエ団のエトワールとして名を馳せたエリザベット・プラテル。ベッシー時代の成果を踏まえつつ、独自のカラーを加味しているという。

最初に上演されたのは『ペシェ・ド・ジュネス(青春の過ち)』。バールがオペラ座バレエ団のエトワールとして活躍中の2000年、ベッシーの依頼で、ロッシーニが12歳で作曲した弦楽ソナタに振付けた40分の抽象的な作品。タイトルは、ロッシーニが円熟期に作曲した『老いの過ち』というピアノ曲集にからめて付けたもの。学校で教えられた舞踊のボキャブラリーのみを使い、フランス派の伝統を重視して振付けたそうだが、古典バレエのパが流麗に連ねられているだけに、踊り手の習熟度が鮮明にうかがえる作品といえる。
2組の17歳の男女によるパ・ド・ドゥでは、男性ソリストのバネのある跳躍や女性ソリストの伸びやかさが際立った。これに3組の準ソリストの男女と6組の男女たちが加わり、様々なシーンが展開された。個々人は上手にこなしていたが、時おり群舞のラインが少しずれたのが惜しい。総じて、バールの洗練された美意識が全体に行き渡っていた。

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『スカラムーシュ』は、2005年、エトワールのマルティネスが、新校長プラテルの希望を受けて、年少クラスの生徒たちのために創作した25分の作品。ミヨーの同名の舞台音楽によるコメディア・デラルテを盛り込み、演劇の要素が随所に取り入れられている。
バーやセンターのレッスンに励む生徒たちの姿を紗幕越しに見せたプロローグ。17歳のジュンタロウ・オオグチ=コストがスカラムーシュ役で現れ、日本語で語りかけ、場面を転換。その後も舞台の進行を促し、均整のとれた踊りも見せた。即興喜劇では、12、13歳の生徒らがマイムも巧みに大仰に芝居をこなした。バレエ・シーンでは、トゥシューズのバレリーナの均整のとれた踊りや、ネズミに扮した11歳の女の子たちの愛くるしい仕草が楽しめた。
アルブレヒト役の男の子が、花占いをするジゼルのべンチに片足をのせたポーズの格好良かったこと! 
エピローグで、少年たちがバーでプリエをするレッスン風景に戻る。舞台で踊るという子どもたちの夢を作品に仕立ててしまったような構成も素晴らしい。それにしても、彼らが大人顔負けに演じる姿は、微笑ましくも頼もしかった。

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最後の演目は、フォスターの民謡によるノイマイヤーの『ヨンダーリング』。1996年、バレエ学校の生徒のために創作した30分の作品で、オペラ座バレエ学校がこれを採り入れたのは1999年。タイトルは、フロンティアを越える行為、未知の彼方へ旅立つ行為を意味するそうで、“若いダンサーによって踊られるべき作品”として、プロのバレエ団には上演させていない。使われているのは〈金髪のジェニー〉や〈夢路より〉など郷愁を誘うメロディー7曲。青春期の男女らしい恋のやりとりを描いたデュオもあったが、多くは抽象的な振付。腰を落として構えたり、足先をフレックスにしたり、床でくるりと回転するなど、独特の動きが散りばめられており、ダンサーの柔軟性がより強く求められている。それに応えるように、年長の、だが溌剌とした生徒たちが切れ味の良いステップを披露した。けれど、それだけではない。抽象的な内容でありながら、ダンサーたちの踊りからは不思議な情緒が漂ってきたのである。ノイマイヤーの振付のなせる技によるものでもあるだろう。こうして、それぞれに特色ある3作品を通じて、プラテルはパリ・オペラ座バレエ学校の健在ぶりを示したのである。
(2009年4月25日、東京文化会館)

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