ワールドレポート ~世界のダンス最前線~

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関口 紘一 text by Koichi Sekiguchi 
[2009.04.10]

シルヴェストリンほかの新作が上演された
セルリアンタワー能楽堂のTRIPLE BILL

アレッシオ・シルヴェストリン『かけことば』レオ・ムジック『アレクサンドリア四重奏』 デイヴィッド・ヘルナンデス『SKIM A』 
伝統と創造シリーズ Vol.2 TRIPLE BILL

 渋谷のセルリアンタワー能楽堂セルフプロデュースの2回目の公演は、3名の振付家による、コンテンポラリー・ダンス新作のTRIPLE BILL。能楽堂という「ダンサーの息に手が届く」独特の空間を使ったコンテンポラリー・ダンスと能のコラボレーション公演である。
 3曲が上演された。まずは、ベオグラード出身でベジャールのルードラで学んだ経験を持つレオ・ムジックがロレンス・ダレルの小説に想を得て演出・振付けた『アレキサンドリア四重奏』。振付家自身とスカピノ・バレエやチューリッヒ・バレエで踊ったイリア・ロウェン、酒井はな、中村誠が出演した。
 まず、酒井はなが正面のワキ柱付近に登場して、白い小石をひとつずつゆっくりと落とす。悠久の時間を感じさせる演出だった。ムジックとロウェン、酒井と中村がそれぞれペアとして踊り、時折、パートナー以外のダンサーとも触れるが、再びペアに戻る。肩を深くくねらせる動きを特徴とするダンスで、能楽堂という空間にはあまり留意していない。
 トリシャ・ブラウン・カンパニーやローザスで踊ったデイヴィッド・ヘルナンデス演出・振付の『SKIM A』。ヘルナンデスと元Noismの平原真太郎ほかが踊った。平原が踊り始め、ヘルナンデスと5人の女性ダンサーが登場し、腰をやや屈折させどちらかの足を軸にして頭を大きく回す動きで、独特の雰囲気を感じさせた。ダンサーの配置などにポスト・モダンダンス的な発想を残したダンスだった。
 

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 日本でもしばしばダンスを発表しているアレッシオ・シルヴェストリンの『かけことば』には、シルヴェストリンと能楽師の津村禮次郎、ウヴェ・ショルツのライプチヒ・バレエ団で踊った横関雄一郎、堀内充にバレエを学び、日野武道研究所で身体を磨いた大前光一が出演した。
 舞台中央に白い糸が垂れ下がり、先端はフロアの1メートルほど上にあり、小さな金色の丸い金属板が付いている。そして「ヴェローナにてブルノ・サルディニよって作成された4フィートの小型ヴァージナル」というおもちゃのピアノほどの鍵盤楽器が置かれている。シルヴェストリンは切戸口から礼を尽くして入り、楽器の前に正座して演奏を始める。
 音楽は、能の謡曲からとられた旋律の断片を鍵盤楽器用に転写しようと試みたもの。横関が踊り、糸に吊るされた丸い金属板を小さなバチで打って動きを変える。シルヴェストリンの演奏も鳥の羽根や楽器の左右の板を打つなど、和楽器の演奏スタイルを示唆している。
 津村が翁の面を付け、能の発声法によってプラトンの対話編の章句を謡う。一方の膝下を失った大前が杖をついて登場し、横関とともに踊る。
 能楽などの日本の伝統文化と西洋の文化を、個々のシチュエーションで融合させようという試みと思われるが、発想のコンセプトを語るだけでもかなりのテキストが必要である。
 振付も所作として捉えられていて、伝統的劇空間の能舞台を読み込む作業を主眼に据えている。小型ヴァージナルの音の美しさや舞台空間の構成のおもしろさなどには興味を惹かれたが、ハイブラウなテーマと音楽や哲学の専門的な展開には、正直、付いていけなかった。
(2009年3月1日 セルリアンタワー能楽堂)

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