ワールドレポート ~世界のダンス最前線~

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関口 紘一 text by Koichi Sekiguchi 
[2008.11.10]
今年は酉の市も早く、実りの秋も走り去っていくように感じます。それにしても今年も今のところ台風の襲来なし。ありがたいことですが、来るものが来ないとやっぱり気になります。季節に変調ありなのでしょうか。

Kバレエ カンパニーの『コッペリア』、ダンサーの競演

 熊川哲也の演出・再振付による『コッペリア』を、吉田都・輪島拓也、神戸里奈・清水健太のペアで観た。
『コッペリア』は、Kバレエ カンパニーのレパートリーの中では『ドン・キホーテ』とともにコミカルなタッチのバレエ。普通の若者の恋を、人々の自然な生活の中に描き、ダンサーそれぞれのキャラクターを活かした表現となっている。

 スワニルダを踊った吉田都は、恋する少女の気持ちが、ごく自然に日常的な生活の中に現れてくるように、配慮の行き届いた動きと演技を行っている。 そして「天然」としてのキャラクターの魅力がしだいに発露されて、いつの間にか舞台全体をおおってしまう。とりわけ、第2幕のキャシディとのやりとりは、 少女の老いに対する情け容赦のない残酷さが、「天然」的に現れ、テーマを浮かび上がらせた。ダンサー吉田都のたくまざる、無用の力の入らない素晴らしいダ ンスの表現力、というべきだろう。
輪島拓也のフランツは、吉田にしっかりついて踊り、いい感じのパートナーシップを作っていた。ただ、どうしても熊川・フランツと比べてしまうので、女性 への表現などの細部がもうひとつに見えてしまう。自分だけではなく、女性の気持ちに応じた所作には工夫の余地があるようにも思えた。

 神戸里奈のスワニルダは、もちろん当たり役だが、ほんとうに可愛い。元気の良さが舞台でキラキラと輝き、第2幕では一心な気持ちが自然に流れて観客を引き込んでいる。第3幕のヴァリエーションも気持ちのこもった良い踊りだった。
清水健太のフランツは、神戸とも息が合って、マイムの中にもリズム感があって、ケレン味のないいい踊りだった。吉田恵のジプシー女とのやりとりなどもおもしろかったが、まだ勢いにまかせてしまっているような気もしないでもなかった。

熊川の演出は、細部にわたってよく考えられている。例えば、冒頭からコッペリアが本を開いて持っているが、この本を第2幕では小道具としてじつに巧みに使っていて、コッペリアに扮したスワニルダとコッペリウス博士の間に起るドラマのキーとなっている。
また、蝶を捕まえたフランツがあっさりと殺しスワニルダが怒るシーン、麦の穂の恋占いなどもクラシックとして継承されたものではあるが、生命を描いてい く伏線として描かれている。そして生命のない人形に生命を与えようとするコッペリウス博士の、虚しいけれど誰にでも理解できる行為と恋人たちの気持ちを、 若さと老いの鮮やかなコントラストを示しながら浮かび上がらせている。
ラストシーンでは、人々は生命を授かったことを心から喜び、感謝を捧げる。開放感のあるエンディングだった。

 それにしてもスチュワート・キャシディのコッペリウス博士は見事。カーテンコールでも盛んに演技をして完璧になり切っている。人形に愛を込める愚かさと逆に、老いの執念の中にこそ生命の知られざるエネルギーが潜んでいるのではないか、とまで思わせる。
とはいえこのコッペリウス博士、幕が降りてもダンサー、キャシディに戻ることができるのか、いささか不安になった。
(2008年10月17日吉田都・輪島拓也 10月18日神戸里奈・清水健太 オーチャードホール)