ワールドレポート ~世界のダンス最前線~

From Tokyo <東京>: 最新の記事

From Tokyo <東京>: 月別アーカイブ

関口 紘一 text by Koichi Sekiguchi 
[2008.11.10]

NBAバレエ団、4人の振付家が6つの俳句をダンスに

 NBAバレエ団の「NEW DANCE HORIZON」は、俳句へのイマジネーションVol.2として、4人の振付家が6つの俳句に振付けたダンスを上演した。

<夏の雨 きらりきらりと 振りはじむ・・・・ 日野草城>は安達哲治の振付。
夏の光と雨・・・車椅子の青年の一瞬の幻想の中に、紫の薄物に白い角かくし、赤い衣裳の女性が現れる。陽の光の中に雨が降って、あれは狐の嫁入なのか。
青年と女性の交流の中に、一瞬、姿を現したイリュージョンを描いたダンス。

<痩蛙 まけるな一茶 是に有・・・・小林一茶>は遠藤康行の振付。
舞台の半分のフロアーをグリーンのフィールドにして、男性ダンサーは作者を含む4名、女性ダンサー4名が、蛙の世界の愛の有様を踊った。なかなかカップ ルの組み合わせがすっきりとできない男と女。そのうちに、一人の女性と作者に心の交流が生まれてくる。蛙たちの社会性を浮かび上がらせる味のあるダンス だった。

<水仙に 狐 遊ぶや 宵月夜・・・・与謝蕪村>は執行伸宣の振付。
天にはくっきりと三日月が輝いている。水仙の咲き乱れる沼地に、若く生きのいい狐が登場。ヴィヴィッドな命のエネルギーが脈打つように水仙花と戯れる。 すると美しい月の女神ダイアナが現れ、狐と踊り、やがて弓で射抜く。命をめぐる濃密なイメージが月明かりの中に鮮烈に浮かんだ。

<霜柱 はがねの声を はなちけり・・・・石原八束>は執行伸宣の振付。
自然の大地をおおう水晶のような霜柱を群舞で表し、硬質な触感を捉える。時折現実音の混じる抽象的な音楽を使い、大地の呼気のような独特な感覚を感じさせるダンスだった。Vol.1に初演したものをリニューアルしたヴァージョンである。

<露とくとく 心みに浮き世 すすがばや・・・・松尾芭蕉>は中村恩恵の振付。
ブルーの柄の付いた白い衣裳の男女4人のダンサーが背後に控える中、中村が中央で水滴の滴りを踊る。地球の内をめぐってきた水が一点に集まって滴るよう な動き。それは次第にリズムを刻み、フォーメーションとともに変奏を重ねて行く。自然の静謐と豊かさを表し、歴史と調和した世界が描かれた。鐘の音が効果 的だった。

<名月や 池をめぐりて 夜もすがら・・・・松尾芭蕉>は安達哲治の振付。
中村作品が室内楽とすれば、安達作品はオーケストラが奏でる月を愛でる生き物の交響曲。下手で3匹の蛙が上手の天に輝く月と拮抗するように踊る、椅子に 座ったロングスカートにグリーン、オレンジ、パープルなどのトップを着けたの女性と黒いスーツの男性がフォーメーションを組み替えながらテンポの速い群舞 を展開。月を愛でるカップルや、月の精のような蛙たちなど様々なダンスが舞台いっぱいに踊られ、最後には、3匹の蛙を囲んで全員で一句を案じてみせる、と いう洒落たエンディング。俳諧の諧謔味をダンスで表してみせたところもおもしろかった。

  俳句をモティーフとしたダンスの試みは2回目だが、たいへん興味深かった。俳句の描く情感と諧謔がダンスと共鳴するのは、日本人の創作作品だからなのか。 俳句に響く音----夏の雨音、蛙の息遣い、狐の足音、霜柱の立つ音、露の滴る音、月を映す池のさざ波の音----などが、ダンスのパフォーマンスを喚起 するのだろうか。
知的刺激を感受したダンス公演だった。
(2008年10月4日 杉並公会堂)