ワールドレポート ~世界のダンス最前線~

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佐々木 三重子 text by Mieko Sasaki 
[2008.11.10]

小林紀子バレエ・シアター『ザ・レイクス・プログレス』ほか

 小林紀子バレエ・シアターの第91回公演はトリプル・プログラム。メインは、昨年、日本初演したニネッタ・ド・ヴァロア振付の『ザ・レイクス・プログレス ~“レイク”放蕩児の生涯~』である。
英国の歌手で作曲家のガヴィン・ゴードンが、放蕩児の生涯を描いた英国の画家ウィリアム・ホガースの銅版連作画に創意を得て台本を作成し曲を付けたもの に、英国ロイヤル・バレエ団を創立したド・ヴァロアが振付けた一幕のバレエ。1935年、サドラーズ・ウェルズ劇場で初演された。似た日本名の作品に良く 知られた『放蕩息子』があるが、こちらは新約聖書の中の“放蕩息子の帰還”の挿話をもとに、バランシンがプロコフィエフの音楽、ルオーの美術を用いて振付 けた作品で、1929年バレエ・リュスにより初演されている。

『ザ・レイクス・プログレス』 photograph by Kenichi Tomohiro

『ザ・レイクス・プログレス』は、莫大な遺産を相続した青年がこれを浪費し、負債を返せず収監され、精神病棟で生涯を終えるまでを、青年を慕う少女 をからめて描いたもの。原画の風刺を効かせたのか、青年に取り入ろうとする仕立屋やダンシングマスター、いかがわしい女たち、金を巻き上げるイカサマ賭博 師、精神を病んだ人々などの描写は適度に誇張されていたが、やや画一的にも映った。
踊りやマイム、仕草は非常にナラティヴで、セリフのない芝居のようだった。さすがに“英国バレエの原点”といわれる作品だけに、“時代”を感じさせた。 ただ、少女の心は伝わるものの、青年の内面描写が弱く、物足りなさを覚えた。また、技を披露するような見せ場が少なく、個々のダンサーの印象は薄いが、か つらも服も奪われ、半狂乱で死ぬ青年を体当たりで演じた後藤和雄が光っていた。

『バレエの情景』 photograph by Kenichi Tomohiro

これをはさんで、前にアシュトン振付の『バレエの情景』(音楽・ストラヴィンスキー)、後にプティパ振付の『パキータ』(音楽・ミンクス)が上演さ れた。前者は、舞台の袖から見ても、正面から見ているように思わせるよう構築したフォメーションが特色だそうで、実際、整然と展開された。後者は締めくく りにふさわしい華やいだ舞台となった。何といっても、島添亮子とゲスト・プリンシパルのアレッサンドロ・マカーリオによるアダージオとヴァリエーションが きれいだった。島添は優雅な身のこなしや、シングルでも軸足が一点に定まったようなグラン・フェッテで見せ、立ち姿も美しいマカーリオは脚を振り上げるの にも跳躍にもスケールの大きさを感じさせた。高橋怜子や大森結城らも優れたヴァリエーションを披露しており、ダンサーの層が厚みを増しているのを頼もしく 思った。
(2008年10月18日 ゆうぽうとホール)

『パキータ』 photograph by Kenichi Tomohiro