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関口 紘一 text by Koichi Sekiguchi 
[2008.06.10]

ルグリ、ル・リッシュが踊ったパリ・オペラ座の『ル・パルク』

 早くも梅雨入り、そして台風の襲来です。関東地方の気温も上がったり下がったり、安定し ません。もう誰もが温暖化の影響で異常気象が地球上を席巻している、と信じて疑わないでしょう。ただ、いつ知らずのうちに定着している終末観の中でも、皐 月の花弁の鮮やかさや蝶の羽の動きの優美さなどを感じる気持ちは失いたくはないものです。


パリ・オペラ座バレエ団はいうまでもなく、クラシック・バレエの典雅な伝統を継承する世界を代表するカンパニーのひとつ。このバレエ団の芸術監督を務めることは、舞踊家にとって最高の名誉、とも思われている。
パトリック・デュポン、ルドルフ・ヌレエフに続いて、現在、1995年以来その地位にあるブリジット・ルフェーブルは、オペラ座バレエ団出身だがカニン グハムやルボヴィッチなどとともに仕事をした後、芸術監督に就任した。そしてルフェーブルは、オペラ座のコンテンポラリー・バレエの充実にも力を注いでい る。
これまでのパリ・オペラ座バレエの来日公演は、クラシック・バレエの演目が主体だったが、2005年の愛・地球博では、初めてカロリン・カールソン振付 のコンテンポラリー作品『シーニュ』を上演した。今回のアンジュラン・プレルジョカージュ振付の『ル・パルク』上演は、その流れに沿ったもの。
プレルジョカージュは、カニングハムのもとでダンスを学び、ドミニク・バグエのカンパニーで踊った後、バレエ・リュスへのオマージュとして『結婚』『パ ラード』『薔薇の精』などを振付け、頭角を現した。『ル・パルク』は、1994年に委嘱を受け、パリ・オペラ座に振付けた全3幕のコンテポラリー・バレエ である。


  『ル・パルク』は、フランス庭園を舞台に、ロココ風の衣裳を纏った男女の恋のやりとりを描いている。庭園のセットは細長い三角形の尖塔のシルエットや円柱 が抽象化され、シンメトリーをややゆがめた印象の背景で、時は、恋を語るにふさわしい黄昏や夜。登場するのは、様々に華やかな宮廷風の衣裳を変えて踊る主 役のカップルとコール・ド、そしてゴーグルを着けた現代的衣裳の4人の庭師たち。
全体はモーツァルトの曲で構成されているが、主役のカップルが踊るシーンはピアノ協奏曲、庭師たちのシーンは現実音が構成されたサウンドトラックが使わ れている。庭師はさしずめ天使というか黒子というか、恋の展開を裏から支える役割を果たしている。コール・ドが主役のカップルの感情や情趣といった心の動 きを踊って見せる。


  休憩なしの3幕構成で、それぞれの幕の終曲部に「出会い」「抵抗」「解放」をテーマとしたパ・ド・ドゥが置かれている。主役のカップルの出会いから恋の誕 生、女性の心の微妙な拒否感、そして夜の幻想体験を経て二人の恋愛感情が融和していくプロセスが描かれている。感情的な起伏だけを取り出して表現するので はなく、身体の持つエスプリが情感に巧みに織り込まれているので、たおやかなフランス的ともいうべきエロスが感じられ、華麗な衣裳がいっそう美しく映え る。
主役のカップルはもちろんだが、コール・ドや庭師を踊るダンサーも魅力的で、モーツァルトの華麗な音楽を目でみるような流麗なハーモニーを奏で、さすがオペラ座と感心させられた。


マニュエル・ルグリは、恋心を熱く訴える男、どのように拒まれようが訴える続ける。まるで彼の生きることは恋心を訴えつづけることであるかのようで、常に恋する男のオーラを放つ色気を見せた。
一方、今回初めて踊ったニコラ・ル・リッシュは、苦行僧のように自分を責める。拒まれれば拒まれるほど自分を責める。彼の恋は、いかに自分を責めたかを愛する人に報告する作業のよう。ル・リッシュ独特の存在感を披露した。
ルグリと踊ったレテシア・プジョル、ル・リッシュと踊ったエミリー・コゼットも女性のきめ細かい微妙な感覚を優れた表現力で活き活きと表現した。
(2008年5月24日、昼=コゼット/ル・リッシュ、夜=プジョル/ルグリ。オーチャードホール)