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関口 紘一 text by Koichi Sekiguchi 
[2008.04.10]

中国雲南省の舞踊、ヤン・リーピンの『シャングリラ』(理想郷)

ヤン・リーピンは、創作舞踊のソロ作品『孔雀の精霊』で中国で著名になった舞踊家。彼女はは雲南省の少数民族ペー族の出身。故郷の素晴らしい舞踊がしだ いに失われていくのに危機感を覚え、この地方の舞踊や歌の<原生態>を収集する。そのうちに構想がどんどんふくらんで、『シャングリラ』が制作されたのだ という。
プロローグの「創世記」から「太陽」「大地」「故郷」「聖地巡礼」そしてエピローグの「孔雀の精霊」に至る、という構成である。

「聖地巡礼」が素晴らしかった。ふたりで担いでやっと運べるような巨大な長いラッパが4台も舞台に担ぎだされてきて、厳かな轟音が吹奏される。これが儀式の始まりを神に告げる合図だそうだ。
背景は、天高く雄大なヒマラヤの峰々が雲を戴いて聳え、そのひとつの高峰の上で長い袖をたゆらせて舞姫が舞う。老人がお経の文句を刻んだ石を聖なる場所に黙々と運び堆く積み上げている。
突如、ヒマラヤの中腹が裂け、チベット仏教の読経の際に使われる転経筒をくるくる回しながら一団が踊り始める。これを回して身体と精神の統一をはかるの だ。さらに巨大な転経筒が後光を浴びて現れて舞台の上でくるくると回る。真っ赤な長い袖を振り乱して踊る女性たち。転経筒を回すたびに経文を唱えたことに なり、真っ赤な長い袖はその人物の波瀾の人生を表すという。チベット独特の面を着けた一団も踊り、激しい群舞が続く。そして秘術のような「孔雀の精霊」の 踊りで幕が降りた。チベットの神秘的な色彩と造型がめくるめく繰り広げられた、夢のようなひと時が終わった。

おおらかな愛、大自然のほんの一部としての人間。虫にも植物にも石にも神が宿るアジア。信仰のためにのみ生きるチベットの人々。「金色の峰にある金色の 湖、そこに生える金色の木の枝に金色の鳥が止まってさえずる」という、まさに感動的な<理想郷>のイメージを眼前にすることができた公演だった。
(3月18日、オーチャードホール)


『シャングリラ』

ヤン・リーピン