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関口 紘一 text by Koichi Sekiguchi 
[2007.10.10]

坪内逍遥の実験的大作「新曲浦島」を芸大が初演

 
 明治時代にシェイクスピアを全訳したり、新しい歌舞伎台本を書くなど活躍した坪内逍遥は、ワーグナーの楽劇に触発されて日本の国民的な演劇を創ることを願った。そして生まれたのが、邦楽と洋楽のコラボレーションによる音楽舞踊劇『新曲浦島』だった。
この逍遥の和製オペラともいうべき戯曲は、ごく一部分が上演されたことはあったものの今日まで全幕が上演されたことはなかった。東京藝術大学では、創立120周年企画により上演することになった。

タイトル通り、浦島伝説を題材として日本の伝統演劇の「振り事劇」(所作事つまり舞踊によって物語が進行すること)を刷新して、邦楽と洋楽を融合した国民的オペラの創造を目指している。そしてその格調高い美しい詞は日本の文化の宝とまで讃えられているのである。

この「新曲『浦島』」は、桃源郷のような新婚の喜びには必ず終わりが訪れる、未来永劫に続かないからこそ喜びは尊い、といった二元論的な真実を説いている。うたかただからこそ価値があり、不変のものに価値はないというのである。
「新曲『浦島』」に描かれた<あの世とこの世>は、例えば『ジゼル』のように厳しく対立しておらず、むしろ親和的にさえ感じられる。この世とあの世は二元的ではあるが、より高度な次元では、統一されるという東洋風の思想が背景にあるのだろう。

邦楽は重層的に構成されていて繊細で力強く、宇宙的な説得力を秘めている。邦楽の声に、洋楽の響きが入ることによってじつに美しく感じられた。
オーケストラと邦楽の奏者が舞台に乗り、歌手が下座音楽風に簾の背後でダンサーたちの台詞を歌うラストシーンは、じつに素敵な効果を上げた。大和言葉の美しさが音楽的に反響して素晴らしかった。
まさに、温故知新、和魂洋才を地で行くような舞台だった。
 

(9月13日、東京藝術大学奏楽堂)