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佐々木 三重子 text by Mieko Sasaki 
[2007.09.10]

<ルグリと輝ける仲間たち>ファイナル公演

<ルグリと輝ける仲間たち>ファイナル公演
”パリ・オペラ座の貴公子”として絶大な人気を誇るマニュエル・ルグリが来年3月に定年を迎えるため、オペラ座バレエ団の仲間たちを率いて行ってきたグ ループ公演も今回が最後になるという。そのフィナーレを飾るべく、東京では二種のガラ公演と特別企画の『白鳥の湖』が催された。出演者数人がケガのため変 更されたのは残念だが、総じて若手のダンサーを積極的に紹介しようというルグリの意図が感じられた。

ガラ公演はBプロの最終日を観た。9演目中、ルグリが踊ったのは2作品と、ファイナルにしては寂しい気がした。だが、ルグリを大いに触発したと言われる モニク・ルディエールとの『オネーギン』(振付=クランコ)の別れのパ・ド・ドゥが観られたのは、幸せだった。自分を振った男の訪問を待つルディエール が、再燃する恋心や甘美な期待と、分別や自制心との葛藤を、落ち着かない振る舞いでリアルに表出すれば、ルグリも、彼女の魅力に目覚めて燃え上がる心や悔 恨の念を克明に伝えた。相手の熱情を揺さぶるように抱き、激しくリフトするルグリと、決然と別れを告げるルディエールの対比が見事だった。
もう一つの演目はベジャールの『さすらう若者の歌』。ケガをしたオレリー・デュポンに代わり、ローラン・イレールを共演に得ての演目変更である。共振 し、絡み合い、はじき合う二人の男のやり取りの中に、触れ合うことのできない、傷つきやすい心の領域が見えてきて、切なかった。今回は、齢を感じさせたイ レールに比べ、ルグリが若々しく映った。ルグリの振付作品『ドニゼッティ・パ・ド・ドゥ』も注目された。クラシックの多様な技法を駆使した真に卒のない構 成で、ドロテ・ジルベールとマチュー・ガニオが端正に踊りこなした。ただ、もっと個性的な作品を期待していたので、少々拍子抜けした感じだ。
ほかに、『タランテラ』で瑞々しいデュオを踊ったメラニー・ユレルとアクセル・イボ、聖書のカインとアベルの物語による『アベルはかつて……』で、調和 の諧調とそれが崩れていく様を濃密に紡いだグレゴリー・ドミニャックとステファン・ビュヨン、『ドリーブ組曲』でスケールの大きな踊りを見せたミリアム・ ウルド=ブラームとマチアス・エイマンなど。『牧神の午後』(振付=マランダン)で、本能や野性のままに行動する半身半獣の牧神を、ニンフの登場しない全 くの一人舞台でリアルに写し取ったバンジャマン・ペッシュが異彩を放っていた。
『さすらう若者の歌』
イレール、ルグリ
『ドニゼッティ・パ・ド・ドゥ』
  ジルベール、ガニオ
『牧神の午後』
バンジャマン・ペッシュ
『オネーギン』
  ルディエール、ルグリ
『ビフォア・ナイトフォール』

(8月13日、ゆうぽうと簡易保険ホール)

『白鳥の湖』は、主役が幕ごとに交替するという、祝祭性を打ち出したガラの日を観た。第1幕の庭園でのジークフリート王子はオドリック・ベザール。王子ら しい雰囲気は備えていたが、演技は淡泊。むしろ、道化のマチアス・エイマンが強靭な跳躍や回転に加え、饒舌なマイムで盛り上げていた。パ・ド・トロワのマ チルド・フルステーとシャルリーヌ・ジザンダネは安定した踊りを見せたが、男性が着地で乱れたのが惜しまれる。
 『白鳥の湖』第1幕
マチアス・エイマンフルステー、ジザンダネ
 第2幕の湖のほとりの場。王子役のルグリは溌剌としていて、オデットを見た驚きや、心惹かれていく様を手に取るように伝え、自身の踊りの見せ場の少なさ を補った。ミリアム・ウルド=ブラームはいかにも清楚なオデットの役作り。白鳥にされた経緯や王子に救いを求めるマイムは説得力があり、しっとりと情感を 漂わせていたが、やはりまだ硬い。
第3幕は王宮の舞踏会。旋風の如く現われたオディールのドロテ・ジルベールは、鋭さを手足の先にまでこめて強い意志を表わし、王子の疑惑を感じ取ると、 すぐさまオデットの動きを真似て巧みに王子の心を絡め取った。対照的に、マチュー・ガニオは仕草のすべてが優雅。無防備に自分の気持ちを出してしまう、い かにも育ちの良い王子だ。”黒鳥のパ・ド・ドゥ”は役作りの特色をそのまま持ち込んだようで、ジルベールの切れ味の鋭い演技とガニオのしなやかな跳躍や回 転が呼応した。間にロットバルトのソロが挿入され、ステファン・ビュヨンがコントロールの良い、鮮やかなジャンプを披露した。舞踏会でも、道化のエイマン が達者な踊りときめ細かいマイムで愛嬌を振りまき、人気をさらった。
第4幕の王子とオデットは第2幕と同じ。ロットバルトのビュヨンが勝ち誇るように力強くジャンプし、オデットをいたぶれば、ルグリの捨て身の戦いも一層 激しく見え、静かに迎えた幸せな結末を際立たせた。共演した東京バレエ団は、遜色なくゲストたちに対応していた。特に舞踏会で緊迫感をもたらした”スペイ ンの踊り”や、照明の美しさも効果的だった白鳥たちの幽玄な群舞が印象に残った。
『白鳥の湖』第2幕
ウルドブラーム、ルグリ
『白鳥の湖』第3幕
ジルベール、ガニオ、ビュヨン

(8月16日、ゆうぽうと簡易保険ホール)