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佐々木 三重子 text by Mieko Sasaki 
[2007.08.10]

デヴィッド・ビントリー、『美女と野獣』を語る

英国バーミンガム・ロイヤル・バレエ団(BYB)の芸術監督、デヴィッド・ビントリーが、来春予定される同団の13年振りの日本ツアーのプロモーションの ために来日した。演目は、前芸術監督、ピーター・ライトによるお馴染みの『コッペリア』と、ビントリーが2005年に演出・振付けた『美女と野獣』の2 作。自作やバレエ団について聞いた。
子供のころから童話やおとぎ話が好きだったというビントリーは、『美女と野獣』のバレエ化を20年以上も温め続けていたという。
「この物語の闇の世界や心理的な面に惹かれていたが、王子が野獣に変えられてしまう理由が納得できずにいた。そこで、王子だけでなく、宮廷そのものが魔法 をかけられて動物の世界になるという形を思いついたのが20年、いや30年前かなあ。だが、状況が整わなければバレエ化に取り掛かれない。作品に合った作 曲家やダンサーが必要です。まず、鋭い刃を感じさせる音楽が欲しかった。グレン・ビュアーのCDを見つけたのは偶然で、彼のリズミックな音楽を聞いて、踊 りやすい曲を書いてくれると思い、委嘱しました」
子供も楽しめるお話だが、「様々な要素が複層的に積み重ねられており、官能性や性的特質、精神的問題も含み、人間の心の底に潜む闇にも分け入る」と、奥深 さを強調。振付では、ベルと野獣の微妙な心の変化を伝えるパ・ド・ドゥや、欲深いベルの姉たちの醜い振り、金持ちコショの滑稽な仕草、動物たちの宮廷舞踊 を考えるのを楽しんだようだ。
また、ヨーロッパ文学では森は知ることのできない不可解なもののシンボルであるとも指摘。「森は危険な場所で闇を表すが、自然界そのものでもある。王子を 野獣に変えるのは森番だが、私は森の長(おさ)のような神格化した存在として描いたつもりだ。結局、このバレエは、森の長がいかに自然界の秩序とハーモ ニーを取り戻すかの物語なのです」
BYBの芸術監督に就いたのは1995年。まず、保守的な作品に偏っていたレパートリーを改めることに着手。お蔭で、古典と、BYBや英国ロイヤル・バ レエ団のために創られた"遺産"と、新作とをバランス良く上演できるようになったという。ちなみに芸術監督就任のお披露目は、新国立劇場でも上演された 『カルミナ・ブラーナ』初演だった。
ダンサーに対しては、言われた通りに踊るだけではダメで、創造性を育くむよう指導している。「振付家が探し求めているものを察知し、それを即興で表現で きるということは、一種の才能といえるだろう。それができない偉大なダンサーもいるがね」と笑い飛ばした。
最も影響を受けた振付家としてアシュトンとバランシンを挙げ、バランシンはベートーヴェンで、アシュトンはモーツァルトと、作曲家になぞらえた。「一番好 きなのはアシュトン。実に素晴らしい職人だと思う。ソロやアンサンブルなどを混ぜて、バレエ団全体を踊らせてしまう。バランシンの振付はアシュトンよりも 力強く、創意に富んでいるが、中には間違ったステップもある。だがアシュトンは、どのステップをとっても完璧で、驚くほど洗練されている。また、バランシ ンの筋のない作品は極めて抽象的で、ヒューマンな所がなく、ダンサーはただ踊るだけだが、アシュトンの作品は、たとえ筋がなくても感情がこめられており、 いつもヒューマンだ」と、アシュトン賛美に終始した。