ワールドレポート ~世界のダンス最前線~

From Tokyo <東京>: 最新の記事

From Tokyo <東京>: 月別アーカイブ

関口 紘一 text by Koichi Sekiguchi 
[2006.09.10]
 日々、空気の秋色が濃くなっていくのが感じられる季節です。実りの秋。1週間毎に、新しい旬の味が店頭に並んでいきます。舞台でももちろん、新しい旬のダンスをたっぷりと味わいたいものです。

K-BALLETの『ラプソディ』『セレナーデ』『若者と死』

 吉田都の移籍が決り、ますます発展する熊川哲也が率いるK-BALLET COMPANYの「サマー・トリプル・ビル」公演が行われた。<20世紀三大振付家、夢のプログラム>と謳われた演目は、フレデリック・アシュトン/セル ゲイ・ラフマニノフ『ラプソディ』、ジョージ・バランシン/ピヨトール・チャイコフスキー『セレナーデ』、ロ-ラン・プティ/J.S.バッハ『若者と死』 である。

『ラプソディ』は英国ロイヤル・バレエ団のファーストソリスト佐々木陽平がゲスト出演し、荒井祐子と主役を踊った。佐々木は昨年、ロイヤル・オペラハウス で吉田都とこの作品のパ・ド・ドゥを踊っている。荒井は華麗に、佐々木は軽々と難しいステップを見せた。ニューヨークのメトロポリタン歌劇場で踊った経験 が生かされているのだろうか、ほかのダンサーたちも自信を持って踊っていた。

『ラプソディ』は良く知られるように、1980年にエリザベス皇太后の80歳の誕生日を祝うガラ公演で初演された。踊ったのはミハイル・バリシニコフとレ スリー・コリア。衣裳と装置は、バレエ・ランベールやヴィック・ウエルズ・バレエでダンサーとして活躍し、アシュトンの『ファサード』やド・ヴァロワの 『チェックメイト』などの初演を踊り、デザイナーとしてもアシュトン作品の『スケートをする人々』なども手掛けたウィリアム・チャペルだった。この時の装 置は、背景に円柱をあしらったもので、バリシニコフの衣裳ももっと装飾の多いものだったようだ。
1995年、パトリック・コーンフィールドが装置、衣裳ともにデザインし直して今回上演されたものになった。ちなみに、この95年の英国ロイヤル・オペ ラハウスの『ラプソディ』の再演は、当時ロイヤル・バレエのプリンシパルだった熊川哲也がヴィヴィアナ・デュランテと踊った重要な舞台である。
コーンフィールドのデザインは、モダニズムの感覚を生かして、じつに色彩感覚が豊かで格調高い舞台を創っている。その美術や衣裳の<シックな原色>とで も呼びたいような色彩が、ラフマニノフ&パガニーニの曲が描く色調とダンサーの高度なステップのラインに映って、喩えようもない美しさを醸し出す。

アシュトンの凝ったダンスを観た後に、今度はバランシンの『セレナーデ』の軽快なステップに圧倒される。素の舞台にブルーの照明、長いチュチュを着たバ レリーナを中心に自由自在、流れるようなフォーメーションが展開する。音楽は振付家自身が作曲したのではないか、と思われるほど、曲とダンスが一体化して 感じられる。ダンサーたちが口を揃えて「踊っていて楽しい」という、バランシンの天才が輝く振付作品である。

  そして、プティ/バッハ/熊川による『若者と死』。ウィーン国立歌劇場バレエからベルリン国立バレエ団に移籍したばかりの中村祥子をゲストに迎えた舞台で ある。熊川が踊る若者は、都会的だが生きることへの焦燥感に駆られて狂熱的である。鋭い集中力が描く完璧な動き、またたくうちに、舞台の空間をバレエダン サー熊川哲也の存在感で満たす。生と死が一瞬のうちに入れ替わる、スリリングなダンスであった。
中村は、プティ作品を踊るのは初めてとはとても思えないほど、堂々と美しく「死」を踊った。
(8月9日、文京シビックホール)

「若者と死」