ワールドレポート ~世界のダンス最前線~

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関口 紘一 text by Koichi Sekiguchi 
[2006.08.10]

牧阿佐美バレヱ団によるプティの傑作『ノートルダム・ド・パリ』

 ロ -ラン・プティ振付の『ノートルダム・ド・パリ』(1965年初演)は、巨大なノートルダム寺院の醜い鐘突き男カジモドと、ジプシーの美女エスメラルダの 実ることのなかった哀しい愛の物語である。だが、プティはセンチメンタルな情感に陥らず、巨大なセットとサン=ロ-ランの色彩溢れる衣裳を使って、ミュー ジックホール風の舞台表現を導入した華麗なるバレエを創っている。(今回は新国立劇場の優秀な舞台機能を使った完全版として上演された)
登場人物は、カジモド、エスメラルダとエスメラルダが思いを寄せる歩兵隊長フェビュス、カジモドの恩人だが冷血な司教代理のフロロの4人に絞られ、それぞれの葛藤シーンに、コール・ド・バレエが展開してすべてを語っていく。
  音楽は、初演当時、大作映画の作曲家として有名だったモーリス・ジャール。叙事的というか劇版的な曲で、それぞれのシーンの雰囲気を盛り上げている。しか し、<哀しい愛のテーマ>といったような登場人物の感情を直接描くメロディは聴こえてこなかった。代わってというわけではないが、独特のカラフルな衣裳を 着けたコール・ドの動きによって、悲劇的予兆や死、絶望、暴力などが表される。こうして、ヴィクトル・ユーゴーのペシミスティックな運命の悲劇が浮き彫り にされるのである。しかし、やはり、カジモドの魂の悲鳴を表す鐘の音とか、ドラマのモチーフに共鳴するようなメロディが欲しかった、と思うのは通俗な感想 だろうか。
第2幕の揺れる大きな鐘の動きにシンクロして始まる、カジモドとエスメラルダのパ・ド・ドゥは、バレエのパとポピュラーダンスの動きをミックスした独特の動きで、今みてもたいへん斬新な印象である。カジモドの特殊な身体性を逆用して、見事な効果を上げている。
  エスメラルダを踊ったルシア・ラカッラは、まるでオードリ・へップパーンのように魅力的。巨大なセットやサン=ロ-ランの艶やかな色彩ともコントラストを なす、素晴らしいムーヴメントであった。カジモドのリエンツ・チャンはしっかりとした明確な表現と動きで、ラカッラの美しさを引き立てた。菊地研のフロロ はシャープな動きで強い印象を残した。(7月22日、新国立オペラ劇場)

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