ワールドレポート ~世界のダンス最前線~

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関口 紘一 text by Koichi Sekiguchi 
[2006.07.10]

ネザ-ランド・ダンス・シアター I が3作品を上演

 ネザ-ランド・ダンス・シアターの主要カンパニーであるNDT I が、4年ぶりに6回目の来日を果たし、3作品を上演した。現在の芸術監督は、ハンブルク・バレエやフランクフルト・バレエなどで活躍したアンダーシュ・ヘルシュトロムである。

 まずは、芸術監督時代にこのネザ-ランド・ダンス・シアターを世界的なカンパニーに発展させた、イリ・キリアンの作品『トス・オブ・ア・ダイス』。
芸大出身で、風や水の動力で動く作品を発表している彫刻家、新宮晋とキリアンのコラボレーションである。
「美しいものには、時として残酷な面が潜んでいる。とびっきり美しくて、触れれば血が噴き出るような、そんな鋭利なオブジェを考えてくれないか?」という キリアンの注文を受けて新宮が創った鈍いステンレス色のオブジェが、舞台の天から吊るされゆっくりと回転している。非常に鋭い押しつぶした3角形のような 形の羽根が4枚、不規則な弧を描きながらゆっくりと舞台上を下手から上手に移動している。無機質で超機能的な美しいオブジェは、まるで無重力の天体を運行 するように回転しつつ移動している。

『トス・オブ・ア・ダイス』
 そうしたオブジェの下で12名のダンサーが踊る。マラルメの詩句が囁やかれ、石を打ち合わせるような音が、一定のリズムを刻む(音楽/ディルク・ハウブリッヒ)。ダンサーは薄暗い中に投じられた光に沿って、人間的なニュアンスのある比較的穏やかな動きを繰り広げる。
最後は、鋭い感覚のオブジェが舞台に下りてきてダンサーに接近する。そこには、終末感と同時に輪廻転生を思わせるような宇宙と生命を感得する瞬間があった。

次は、NDTのレジデンス・コレオグラファーであるポール・ライトフットとソル・レオンの共同振付作品『サイニング・オフ』。音楽はフィリップ・グラスの『バイオリンとオーケストラのためのコンチェルト』が使われている。
裸の上半身に直にジャケットを着けた男性ダンサー4人と、白い衣裳の女性ダンサーが二人。舞台上の暗幕で区切られ、大きく波打つ背景幕の前で踊る。ひと つの動きを次々とダンサーがフューチャーして進行するが、その間に他のダンサーは観客に背を向けて立っている。そして、次第に背景幕の中にダンサーが消え て行く。音楽のイメージと振付家のヴィジュアルが融合された舞台だった。

最後は、クルベリー・バレエの芸術監督でもあるヨハン・インガー振付の『ウォーキング・マッド』である。
幕が開く前の観客席に黒いシルクハットの男が登場。幽かに聞こえる口笛の音に誘われるように舞台に上り、持ち上げようとした幕がさっと開く。舞台では女 性が一人、散らばった衣裳を集めているごく日常的な舞台裏の光景。舞台の背後には、使い古した板で組まれた塀が立っている。シルクハットの男が何気なくそ の塀にもたれかかると、突如、ものすごい勢いで塀が舞台前面に突き進む。男は必死で自分の身体を支える。すると、塀の内側から女が飛び出してきて、なんと ラヴェルの『ボレロ』の曲に乗って踊りだすのである。

観客の注目を集中させるスリルと意表を突いたユーモアが際立つ、見事なオープニングだった。その後、様々な展開があるが、塀の内側から不思議なエネル ギーがどんどん現れ、祭りのように一体感のある盛り上がるシーンとなる。最後は黒いシルクハットの男も塀の内側に消えて幕。
なかなかシャープで手際の良い展開と興味深いイメージで見せた。ダンスと物語の演出が破綻がなくまとまっていた。ラストシーンのアルヴォ・ペルトのピアノ曲も効果的だった。
(6月28日、新宿文化センター)



『ウォーキング・マッド』

『サイニング・オフ』
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