ワールドレポート ~世界のダンス最前線~

From Tokyo <東京>: 最新の記事

From Tokyo <東京>: 月別アーカイブ

佐々木 三重子 text by Mieko Sasaki 
[2006.07.10]

モーリス・ベジャール・バレエ団『バレエ・フォー・ライフ』『愛、それはダンス』

  スイス・ローザンヌを拠点とするモーリス・ベジャール・バレエ団が2年振りに来演した。この巨匠が2007年1月1日に80歳を迎えるのを記念するシリー ズの第2弾である。プログラムは、英国のロック・グループ、クイーンの音楽とベジャールの出合いが刺激的な『バレエ・フォー・ライフ』(1997年)と、 今回日本初演となった、往年の作品から名シーンを抜粋して愛と生を謳いあげた『愛、それはダンス』(2005年)の2演目だった。

  『バレエ・フォー・ライフ』は、同時期に同じ45歳で没したクイーンのヴォーカリスト、フレディ・マーキュリーとベジャール芸術の最高の体現者ジョル ジュ・ドンに捧げるオマージュとして創作された作品。冒頭の「イッツ・ア・ビューティフル・デイ」で、白い布をかぶって横たわるダンサーたちが起き上が り、顔を見せ、立ち上がり、布をまるめて動き出したのに続き、フレディを思わせるレオダードの男(J・ファヴロー)が現われ、スペクタクルなショーが始ま る。「ブライトン・ロック」や「ボーン・トゥ・ラヴ・ユー」といった数々のヒット曲の間に挿入されたモーツァルトは、異質ながら作品の奥行きを深めてい た。また、白と黒を基調としたヴェルサーチの衣裳も際立っていた。

多 彩な男女のデュオやソロのほか、両手に羽根を持って跳び回る恰幅の良い天使(V・ヒメネス)や、モーツァルトのピアノ協奏曲第21番にのせて、男女がデュ オを、その傍らではストレッチャーに横たえられた男女と看護師たちのからみが繰り広げられ、D・ルヴレが白い壁で囲まれた空間でしなやかにポーズを取る と、男性ダンサーが次々にその狭い空間に入り込む「ラジオ・ガガ」や、那須野圭右が楽しげに踊る「ミリオネア・ワルツ」など、様々な情景が展開された。そ れにしても要所で締めたG・ロマンの存在は大きい。また「フリーメーソンのための葬送音楽」で、手や脊椎、骨盤のX線写真が映し出される場面は、死そのも のやエイズの犠牲となった2人をしのばせた。圧巻は、今や伝説になったドンのビデオ。十字架に打ち付けられてもがき、目を見開いて踊る姿は痛々しく胸に迫 る。続く「ショー・マスト・ゴー・オン」で、来日できなかったベジャールに代わり、ロマンが舞台の奥から進み出て、左右から走り寄るダンサーと次々に握手 するフィナーレは、音楽の力も加わって感動的。ベジャールがいなくても、その芸術は受け継がれなければならないというメッセージのようにも受け取れた。
(6月15日、ゆうぽうと簡易保険ホール)

『愛、 それはダンス』は、初期代表作『春の祭典』の生け贄のシーンで始まり、『ロミオとジュリエット』や『バレエ・フォー・ライフ』など新旧作品の名場面に、初 演時にはなかった『二つの大戦の間』を加えた17のパートから成るベジャール作品のアンソロジー。巨匠の作風を網羅するというより、愛や生の本質に迫る作 品に焦点を当てた構成といえる。

『春の祭典』で、生け贄の男女や群舞が荒々しい生と性のエネルギーを放射したのに続き、『ロミオとジュリエット』(音楽・ベルリオーズ)のバルコニーの場 で、L・ディアス=ゴンザレスとM・ヴェデルが流れるようなデュオで愛をほとばしらせたが、このペアはこれ以外の作品にも随時現われ、「愛」というテーマ を喚起する。『ヘリオガバルス』の原始的な男女のデュオと『わが夢の都ウィーン』での都会の男女のデュオが鮮烈な対比を成し、『ギリシャの踊り』の明るい おおらかな群舞、『アレポ』後半で男性ながらW・ペドロが見せたトウシューズでの妙技、またE・ロスが燃え上がる情念を踊り伝えた「行かないで」を含む シャンソン集『ブレルとバルバラ』など、忘れ難くても全部は書ききれない。

再 び登場した『ロミオとジュリエット』では、情熱的に踊る二人は闘争に巻き込まれ、翻弄されるが、その様が『二つの大戦の間』で有刺鉄線の柵で隔てられた男 女にオーバーラップしていき、現代に通じる問題を提議する。『バレエ・フォー・ライフ』からの二つのシーンや『もっと先へ』での那須野圭右の溌剌としたソ ロの後、『春の祭典』が繰り返されたが、生け贄をロミオとジュリエットにすり替えた点にベジャールの強烈な意図がうかがえる。ただ、ここまで全部繰り返さ ずに凝縮したならば、むしろインパクトは強まったのではないかとも思った。そして、「ショー・マスト・ゴー・オン」の音楽が会場を満たす中、G・ロマンが ダンサーたちを迎えるフィナーレ。これには、この前に何があろうが、すべてを飲み込んでしまう魔力があった。(6月22日、ゆうぽうと簡易保険ホール)