ワールドレポート ~世界のダンス最前線~

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関口 紘一 text by Koichi Sekiguchi 
[2006.04.10]
 関東地方は吹き荒れましたね、春一番。何番か分からなくなるくらい吹きました。 八分くらい咲いた桜が、強風に吹き飛ばされまいとして必死に耐えている様子は、毎年の光景とはいえ、春の気持を感じます。これから、日々、自然の新しい花と舞台の美しい花が咲き競う季節です。

日本人スタッフを主体とした新作全幕バレエ『ア ビアント』

 牧阿佐美バレエ団が創立50周年記念公演として、高円宮殿下追悼の新作バレエ『ア ビアント~だから、さよならはいわないよ~』を初演した。

プロローグ、エピローグ付全二幕の大作で、美術と一部の振付、主演男性ダンサーを除いて、日本人の制作スタッフによる創作バレエである。世界的にみて も、全幕バレエの新作は希少であり、日本人主体のスタッフのチャレンジは、観客も含めて日本のバレエにとって意義あることであった。こういう言い方は礼を 失するかもしれないが、どのような機縁でも新しい全幕バレエが創られるのは喜ばしいことである。

原作は作家の島田雅彦、音楽は三枝成彰、振付は牧阿佐美、三谷恭三、ドミニク・ウォルッシュ、美術はルイザ・スピナッテリ。
  安らかな自然が調和している世界でカナヤとリヤムは愛し合っていた。しかし人間と動物たちの擾乱と殺りくが始まり、カナヤの愛と願いも叶わずリヤムが死 ぬ。冥界に運ばれたリヤムは、愛する人との再会を望み、限られた時間の中、カナヤの現世の記憶を代償に許される。そして二人は困難や厳しい条件を乗り越え て再会を果たす。リヤムの犠牲と霊の力によりカナヤの記憶を取り戻し、次元を超越した魂の交歓を交わす。そして、生まれること愛すること死することを終え たリヤムと、カナヤは別れのダンスを踊る……。といった物語である。

静謐な背景画が非常に美しく、メタフィジックな世界を喚起させるヴィジュアルである。衣裳も洗練されていて、簡素な装置と背景画と調和してノーブルな雰 囲気が感じられた。高円宮殿下の人生から想起し、荘大な魂のドラマを創った原作、愛の力強さを感じさせた振付、豊かな表現力を見せた音楽、新たな人物像と 格闘していたダンサーたちと、それぞれの力がこもった舞台だった。
ただ、言葉で創った象徴性と身体の表現のそれがいまひとつ未消化に終ったことは惜しまれるが、これは一朝一夕の問題ではないだろう。外国人の創作や既成 の作品を使うことを単純に批判するわけではないが、日本人を主体とするスタッフが創造の苦闘を何度も重ね、世に問うことにより、必ず新たな日本のバレエの 展望が拓けてくるはずである。そう切実に感じた公演であった。
(3月17日、オーチャ-ドホール)


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