ワールドレポート ~世界のダンス最前線~

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関口 紘一 text by Koichi Sekiguchi 
[2006.01.10]
 明けましておめでとうございます。寒いですね。観測史上の記録を更新しつづける寒波の襲来。鹿児島や広島などにも積雪して、まるで「日本列島雪景色」で す。でも日本だけじゃなくて、ヨーロッパでも雪が降り寒波がやってきているそうです。地球が温暖化して、今まで以上に水蒸気が発生し、それが雪になって 降っているとか。それなら温暖化に歯止めがかかるといいんですけど。ともあれ、年が明けてダンスの舞台はいよいよ熱くなってます。

『くるみ割り人形』を探して、その1

 昨年の年末もまた多くの『くるみ割り人形』が上演され、クリスマスの楽しさに彩りを添えた。よく知られているように『くるみ割り人形』は、1892年 12月18日にサンクトペテルブルクのマリインスキー劇場で初演された。この時は、チャイコフスキーのオペラ『イオランタ』とのダブル・ビルで、クリスマ スのための子供向けのバレエとして上演された。

『くるみ割り人形』が子供を中心とした童話の世界を描いた作品であることは、チャイコフスキーの音楽を聴けばすぐに理解できる。またこのバレエは、劇中で クリスマスツリーが巨大化することに表されているように、主人公クララの少女から大人への成長の物語である。しかし『くるみ割り人形』のヴァージョンは、 世界中のバレエ団の数と同じくらいある、と言われるくらいに様々なものがある。マーク・モリスやマシュー・ボーンのようなコンテンポラリーな振付家が、 「偶像破壊」的な『くるみ割り人形』を創っていることも有名である。
レフ・イワノフ振付の初演版『くるみ割り人形』は、金平糖の精をアントニエッタ・デリ=エーラ、コクリューシュ王子をパーヴェル・ゲルト、ドロッセルマ イヤーをティモフェイ・ストゥコルキンが踊り、バレエ学校の生徒たちがくるみ割り人形(セルゲイ・レガート)、クララ(スタニスラフ・ベリンスカヤ)、フ リッツ(ワシリィ・ストゥコルキン)を踊っている。


昨 年末に観た『くるみ割り人形』では、イワノフ版の復元を明記しているから当然だが、NBAバレエ団のヴァージョンはこれと出演者の構成が同じである。復元 にはイレム・ドージャ(ブタペスト・バレエ学校校長)があたったが、雪の景の振付はナタリア・ボスクレシェンスカヤが担当した。初演時の写真に見られるよ うに、白いむく毛の小さな玉を髪に飾ったコール・ド・バレエが、雪の舞う姿を美しく表していた。また、ドロッセルマイヤーは甥を連れて登場するが、彼と出 会った印象がクララの夢に影響を与えている。第2幕はクリスマスケーキの中の世界のイメージで展開しているし、全体に子供のために創られたバレエ、という ことがよく分かる舞台だった。金平糖の精は、シュツットガルト・バレエ団のプリンシパル、マリア・アイシュヴァルト、王子はNBAバレエ団のセルゲイ・サ ボチェンコだった。
(12月24日、メルパルクホール)
 
  井上バレエ団の関直人振付もイワノフと同じ配役である。くるみ割り人形の王子は大倉現生、王子はオーストラリア・バレエ団ソリストの藤野暢央が踊った。金 平糖の精の島田衣子が細かいステップを余裕を持って踊り、繊細な表現力と素晴らしい踊りを見せてくれた。雪の王子とスペインを踊った井上陽集、花のワルツ の中尾充弘も良かった。全体にすっきりとした洗練された演出で、ピーター・ファーマーの美術と衣装も見事だった。
(12月17日、文京シビックホール)

  東京シティ・バレエ団の石井清子版も「イワノフの原型による」とクレジットされている。石井の振付では、クララ役のバレリーナが第1幕のねずみと玩具の兵 隊の戦争のシーンと雪の国のシーンでは代わり、お面のくるみ割り人形もハンサムなくるみ割り人形(チョ・ミンヨン)に変身する。クララは夢の中で自分が成 長した姿を見る。さらにお菓子国では、コクリューシュ王子(黄凱)と踊る大人の女性の金平糖の精(志賀育恵)を見る。これは少女クララの憧憬を映した演出 であろう。石井振付は子供たちをとてもよく踊らせているが、これはチャイコフスキーの曲想を尊重した演出と言えるだろう。また、志賀育恵の金平糖の精も細 やかな表現を心がけており、江東区でバレエを育てる会が協力していることもあって好感のもてる舞台だった。
(12月23日、テアラこうとう)