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関口 紘一 text by Koichi Sekiguchi 
[2006.01.10]

『くるみ割り人形』を探して、その2

  新国立劇場バレエ団の『くるみ割り人形』は、1934年にキーロフ・バレエに振付けられたワイノーネン版に基づいてガブリエラ・コームレワが演出してい る。イワノフ版は2幕だがワイノーネン版は、ネズミと鉛の兵隊の戦いと雪のシーンを独立した幕とした3幕構成となっている。また、少女マーシャには大人の バレリーナが扮し、くるみ割り人形から変身した王子と第3幕でグラン・パ・ド・ドゥを踊る。全幕を通して主役が主役らしくメインを踊る構成となっている。 そのためマーシャがねずみの王とくるみ割り人形が戦った際に、スリッパを投げつけて助けた、というエピソードをマイムで説明するシーンはカットされてい る。かつての旧ソ連のバレエは、マイムを外して、すべてを踊りで進行するという傾向があった。
マーシャはヴィシニョーワ、王子はフェジェーエフが踊った。主役のダンサーから演出、指揮者、舞台美術・衣装、照明までクリエイティブなセクションはす べてロシア人である。日本のナショナル・シアターとしてここまで必要なのであろうか。日本の現在のクラシック・バレエの水準に照らして一考の余地があるか と思われる。
(12月16日、新国立劇場)

小林紀子バレエ・シアターも原振付として、ワイノーネンをクレジットしている。演出・再振付は小林紀子で、いつもこのカンパニーのスティジングを行って いるジュリー・リンコンが監修となっている。ドロッセルマイヤーにもらったくるみ割り人形がネズミの攻撃からクララを守る。そして彼はドロッセルマイヤー によってくるみ割りの王子に変身する。ラストはクララが見守る中で、金平糖の精とくるみ割りの王子がグラン・パ・ド・ドゥを踊る。ワイノーネン版だがイワ ノフ版の1部を取り込んだようなヴァージョンだった。くるみ割りの王子は英国ロイヤル・バレエのプリンシパル、エドワード・ワトソン、金平糖の精は島添亮 子だった。
(12月27日、メルパルクホール)

松山バレエ団の『くるみ割り人形』は、クララの森下洋子、王子役および演出・振付の清水哲太郎はもちろん、演出・振付、美術から指揮、演奏まですべて日 本人であり、昨年見た中では唯一のすべて<国産>の舞台だった。あらゆる事象で急速にグローバル化が進行しているのだから、今時、<国産>などというのは ナンセンスなのだろうか。
  クララの森下洋子は、最後にくるみ割り人形が変身した王子とグラン・パ・ド・ドゥを踊る。少女クララは、ドロッセルマイヤーに貰った醜いくるみ割り人形を 慈しみ、ねずみの軍隊との戦いを経て、王子を愛する女性へと成長する。王子と別れのパ・ド・ドゥを踊ったクララは、すべてが夢であったことを知る。しかし 終幕では、ドロッセルマイヤーを見送るクララの肩に、雪の女王にもらったショールが掛けられる。クララは夢を見たのに違いないが、彼女が少女から大人の女 性に成長したことも事実である。クララの肩に掛けられたショールがそれを証明しているのである。このクララ役を森下洋子が見事に完璧に踊っている。また、 ねずみの王には七つ頭が付いていたが、バランシン版で登場するねずみの王もまた七つの頭を持っていた。バランシンはサンクトペテルブルク時代に『くるみ割 り人形』に出演したことがあり、恐らく当時のねずみの王様を記憶していたのだろう。
(12月21日、ゆうぽうと簡易保険ホール)