ワールドレポート ~世界のダンス最前線~

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関口 紘一 text by Koichi Sekiguchi 
[2005.09.10]
 様々に祝われ踊られたサマー・シーズンのフェスティバルも終り、秋の香りとともに、いつもの劇場に華やかなダンスが次々と幕を開けます。 フェスティバルの余韻と新しいシーズンへの期待が胸を躍らせる日々。ダンスの楽しさを満喫したい秋となりました。

●新たな芸術監督を迎えたスペイン国立バレエ団の『ラ・レジェンダ』に感動

 1986年以来二回目となるホセ・アントニオを芸術監督に迎えた、スペイン国立バレエ団が来日公演を行った。 これまでは『ボレロ』などのモダンダンスとフラメンコを融合する作品と、スペインの伝統舞踊の小品を組み合せたプログラムが主流だったが、今回の公演はプログラムが一新された。

第1部が「アイレス・デ・ビジャ・イ・コルテ」。<マドリードの雰囲気>という意味だそうだ。振付けたホセ・アントニオ自身が1800年頃のマドリードの様子を表現した作品、という。

踊りは18世紀に始まったエスクエラ・ボレーラというスペインの古典舞踊で、カスタネットの踊りともいわれている。ロマンティック・バレエとも深い繋がりがある。 スペイン舞踊といえば、フラメンコと思い込みがちだが、エスクエラ・ボレーラは、たとえば『コッペリア』の第3幕の「祈り」「仕事の踊り」「時の踊り」などがつぎつぎ繰り広げられるシーンを観ているよう。 バレエシューズを履いた踊りで、バロック・ダンス風のステップもあった。

そしてなにより、ロマンティック・バレエも同様だが、鮮やかな色をちりばめたとりどりの衣裳が、目に彩な万華鏡のような素晴らしいシーンを限りなく描いていく。 ボレロを着けた男性と民俗衣裳の女性のカップルを中心とした、明るく楽しい5楽章のダンスである。そしてクライマックスでは、全員でカスタネットを打ち鳴らしながらおおらかな踊り。 今、そこにスペインの生活が息づいているのを肌で感じることができた。1994年初演、音楽はホセ・ニエト。

『アイレス・デ・ビジャ・イ・コルテ』


『ラ・レジェンド』
 第2部は「ラ・レジェンド」。これはスペインの伝説的舞踊家、カルメン・アマヤ(アマジャ)へのオマージュをフラメンコで構成した舞台である。
カルメン・アマヤといえば、私事で恐縮だが、かつて私は舞踊史に残る舞踊家の舞台を撮影したダンスビデオの上映会を催したことがある。 その時、来場した著名な舞踊評論家I氏(故人)は、このアマヤの舞台を映したビデオを観た際、感激のあまり思わず涙を流したのである。 カルメン・アマヤはこの鮮烈な記憶の中にあって、私には特別な踊り手となっている。

カルメンについては、私はもちろん舞台を観ているはずはない。しかし、その伝説についはいくらか聞きかじり、前述のように舞台の映像を観たことはある。 その他にも映像は、晩年であるがガデスも出演した映画『バルセロナ物語』に出演しているから、ご存知の方もいるだろう。

一冊のカルメン・アマヤの伝説を綴った本が私の手元にあるが、ここには、トスカニ-ニ、コクトー、アントニオ、チャップリン、 チャーチル、モーリヤック、ストコフスキー、オーソン・ウエルズ、エスクデーロ、グレタ・ガルボ、ヌレエフの賛辞があり、序文はアントニオ・ガデス。セル ジュ・リドの迫真の舞台写真が掲載されている。 これだけでも、フラメンコ史上いや舞踊史上最高の踊り手の一人の「伝説」の一端がご理解いただけるのではないか。

「ラ・レジェンド」を振付けたホセ・アントニオは、<カルメン・アマヤ>という伝説の踊り手を、二人のダンサーによって描いている。女(the woman、ウルスラ・ロペス)と不滅の存在(the immortal、エレナ・アルガド)である。二元的に身体と精神をそれぞれのダンサーに託して、カルメンとその伝説を描いている。

観客としては、やはり、パンツ姿のマニッシュなカルメンに目がいってしまう。真剣が空気を切り裂くように鋭い回転、官能的に回る肩。 地球で最も素早い動き、黒豹の野性が甦る、フラメンコの精霊の如きカルメンの踊りをイメージすることができた舞台であった。 とりわけラストのクライマックス、白いロングドレスと黒いロングドレスの踊りは、フラメンコの美のコアを表す忘れがたい舞台であった。
(8月24日、オーチャ-ドホール)