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関口 紘一 text by Koichi Sekiguchi 
[2005.08.10]

●たいへん興味深い公演だった「エトワール・ガラ」

パリ・オペラ座の若手ダンサーと、ハンブルクやミュンヘンなどヨーロッパのバレエ団のダンサーによる「エトワール・ガラ」の公演が行われた。 オペラ座のバンジャマン・ペッシュとジェレミー・ベランガールが中心的な役割を果たしたのだが、なかなか意欲的なプログラムが組まれた。

「オープニング・ガラ」、Aプロ、Bプロというプログラム構成のうち、通常ガラ・コンサートの呼び物とされる、クラシック・バレエ全幕からのグラン・パ・ド・ドゥは『白鳥の湖』第2幕のアダージョのみ。 ほかにもガラの人気演目としては『チャイコフスキー・パ・ド・ドゥ』くらいで、『眠れる森の美女』はマッツ・エク版だった。


『チャイコフスキー・パ・ド・ドゥ』

『チャイコフスキー・パ・ド・ドゥ』

このガラ・コンサートのプログラムの特徴は、バランシン、ノイマイヤー、キリアン、フォーサイス、エクあるいはビゴンゼッティといった振付家として既に名声の確立した人々と、 ジェレミー・べランガール、イリ・ブベニチェク、ジョゼ・マルティネスなどの現役のダンサーで、「これからコレオグラファーとして名を成すであろう人々の作品とが肩をならべて」(ペッシュ)いることである。

「これからコレオグラファーとして名を成す」人の作品の中で印象的だったのは、オペラ座のエトワールのマルティネス振付『パレンテ-ズ1』。 『恋は魔術師』などで知られるスペインの音楽家ファリャの曲を使い、背景にリハーサルの映像を映しつつ本番の踊りを進行していく。 レティシア・プジョルのソロだから、ダブルのプジョルなのだが、リハーサルの映像を映されながら本番を踊るダンサーに生じる微妙な感覚を、ナンセンスな表現で表す。 両方を同時に観ている観客には、それが興味深く感じられるのである。 リハーサルの映像の最後のほうに、振付家の姿をさり気なく映しておいて、本番の舞台にその振付家をさらっと登場させて終る、という瀟洒なセンスのエスプリを感じさせる振付であった。

 ハンブルク・バレエ団の双子のダンサーであるイリ・ブベニチェクの振付作品は、兄のオットーの音楽と使った『身近な距離』とアルヴォ・ペルト他の音楽による『感情の囚われ人』。 オペラ座のエトワール、アニエス・ジロとブベニチェク本人が踊った『身近な距離』は、永遠に変らない「愛の三つの情景」を表した作品の抜粋で、<対立>を描いた部分だそうである。 背景の赤い照明を当てた帯状のスペースの前で、至近距離で向き合いほとんどステップを踏まず、上半身だけの表現だった。 『感情の囚われ人』は、水中の映像などを映し、赤い長いスカートを翻して踊った。ベランガールとブベニチェクの息の合った動きだった。

『身近な距離』

ベランガールも『リーベン・ラインズ』と『接吻』の二作品を上演した。 私は公演会場に向かう途中、地震で電車がストップしてしまい、いろいろ手立てを尽したのだが開演に間に合わず、Bプロの冒頭にプログラムされていた『接吻』を観ることができなかった。残念!  『リーベン・ラインズ』は、自分自身の運命についての想いを表そうとした作品で、ベランガール自身が踊ったソロ作品。 ベ―トーヴェンのピアノ曲とパーカッションを流し、舞台上のふたつのスポット中で自分の顔や身体を描くなど様々な所作を見せる。未来への惑いと、自身の存在を確かめようとする動きなのであろう。

名声を極めた振付家の作品では、ラカッラとペッシュが踊ったバランシンの『アゴン』。 もちろん、クラシックを知り尽くした音楽家(ストラヴィンスキー)と振付家によって創られた高度な美はこの上もなく素晴らしい。 まさに20世紀を代表するような荘厳にして完璧な美しさである。スザンヌ・ファレルを彷佛させる、ラカッラの姿体を見ながら、世が世ならミスター・Bに結婚を申し込まれることまちがいなし、と思った。 また、キリアンの『ニュアージュ』。動きもフォルムも大きく美しい、とりわけ深い情感を秘めたラインは、亡命詩人の妙なる旋律を奏で観客の胸に迫るものがあった。 一方、ノイマイヤーの『シルヴィア』や『椿姫』『ロミオとジュリエット』などは抜粋だったが、キリアンとはまた異なった、いくらあがいても決して得ることのできない愛の喪失感を求めている。


『シルヴィア』

『シルヴィア』

『ロミオとジュリエット』

ラカッラが踊る『白鳥の湖』第2幕のアダージョは、独立したシンフォニック・バレエとして時代を越えた永遠の傑作、といっても過言ではないだろう。

ダンサーは、ジロ、プジョルのエトワールに負けず劣らず、エレオノラ・アバニャートが印象的だった。 彼女は、ショスタコーヴィチの曲にビゴンゼッティが振付けた『カジミールの色』をベランガールと、他にバランシンの『ルビー』をペッシュと、 ヌレエフの『シンデレラ』をベランガールと、キリアンの『ニュアージュ』をオランダ国立バレエのガエル・ランビオットと踊り大活躍だった。 彼女は特別優れたプロポーションではないが、かつての不安定さはまったく影を潜め、見事に闊達なダンスを見せた。 特に『カジミールの色』では、パステルカラーの衣裳を着けて美しいフォルムを次々と描き、色彩豊かな地中海的な官能の香りを垣間見せてくれた。

現役のダンサーたちの振付作品は、どこかに必ずダンサーとしての実感的な部分がダイレクトに感じられて、親しみ易く楽しかった。 スケールが大きく鋭く構築されたダンスも感動的だが、21世紀の声を聞いてからか、ダンサーたちの工夫を凝らした作品をみるのが楽しみとなってきた。これは何かの反動だろうか。
(オープニングガラ7月20日、Aプロ21日、Bプロ23日、オーチャ-ドホール)


『カジミールの色』

『カジミールの色』