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関口 紘一 text by Koichi Sekiguchi 
[2005.04.10]

●小松原庸子スペイン舞踊団創立35周年記念公演は『ゴヤ---光と影---』

 小松原庸子スペイン舞踊団の『ゴヤ----光と影----』は、1983年に初演され芸術祭大賞を受賞し、翌年にはスペイン公演を成功させた小松原庸子にとって最も重要な作品のひとつである。

タイトル通り、スペインのアラゴン地方出身の天才画家、フランシスコ・デ・ゴヤの名画をフラメンコで辿る作品である。であるが、まず、ゴヤという画家が 一通りの天才ではない。宮廷画家として輝ける才能を発揮して頂点にまで昇りつめたゴヤと、病魔に襲われ死の淵を彷徨い人間の残虐の極みを描く画家としての ゴヤ。まさに光と影の人生の中から、スペインを愛し憎み、激しい情熱をもって描き続けたゴヤの芸術を舞台に表そう、という小松原の野心的な試みである。

カスタネットを鳴らして踊るアラゴン地方の、青春の光が目映いばかりのダンス。カントル時代、ゴヤがタペストリーの下絵描きだった頃の「藁人形」のシー ンは、ダンスはまるで地の精霊が踊っているかのようで、のどかな風景の中に太古の記憶が甦っているかのよう。「着衣のマハ」は、マハが三人の男と踊る美し い踊り。「鰯の埋葬」は、子供や仮面を被った人たちのエネルギーが爆発する祭り群舞。四人のマタドールの力強い踊りの「闘牛技」。「鍛冶場・水を運ぶ女」 は、鍛冶屋の前を通りかかった壺を頭に載せた女が、酒を振る舞われて二人で踊る、この上なく楽しい素朴な官能性を表現した踊り。そして「戦争の惨禍」で は、バタバタとフランス軍に撃たれ倒れる民衆。一人の男が祈りを捧げられている瞬間だけ、時が止まり、黒いマリアと踊る。時が戻り、当たり前のように撃ち 殺される。

人類の祈りを一瞬の舞台に表し、観客の脳裡に永遠に定着させた見事な演出・振付であった。
(3月5日、ル テアトル銀座)



ゴヤ生地アラゴンのホタ

カルトン時代 藁人形