ワールドレポート ~世界のダンス最前線~

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関口 紘一 text by Koichi Sekiguchi 
[2005.03.10]
今年もアメリカン・バレエ・ シアターやロイヤル・バレエなどのビッグ・カンパニーが来日する。最近は日本のバレエ団もレベルが高く、良いダンサーがつぎつぎと登場するようになった。 だから観るチャンスがあっても、どのバレエ団のどの演目、どのダンサーを選ぶか、迷ってしまう。 よく「最近のお薦めの舞台は?」と聞かれる。でも、自分で選んで観るのが一番。情報があまりなくても、なにかの理由で自分で決めて観る。そうすると、次に は、さらにいろいろ思うことが出てきて、舞台を選ぶのが楽しくなるはず。そして、だんだんこの道に入りこんで行く……。

●日本で世界初演したアダム・クーパーの『危険な関係』

  ご存知のように、クーパーは東京で行われた熊川哲也がグランプリを受賞した89年のローザンヌ国際バレエ・コンクールで、プロフェッショナル賞を受賞して いる。彼は、ともにロイヤル・バレエで踊った熊川の主宰するK-Balletに、作品を提供したこともある。また、過日は熊川とともにロイヤル・バレエを 退団して、K-Ballet設立のメンバーでもあった、ウィリアム・トレヴィットとマイケル・ナンがシルヴィ・ギエムと共演して話題を集めた。彼らはロン ドンで非常にユニークな舞台活動を展開している。熊川の活躍は言わずもがなである。
このように「寄らば大樹のかげ」を良しとせず、世界一流のロイヤル・バレエ団を辞め、積極的に自由な活動を求めたダンサーたちの仕事が実を結んでいる。これは日本と英国の舞踊界がクロスして生れた、新らしい傾向のひとつである。

クーパーがずっと温めてきた、ラクロの『危険な関係』の舞踊化という企画を日本で実現し、世界初演したのもそうした流れに沿ったものといえるだろう。
舞台は、演出にもクーパーとともにクレジットされているレズ・ブラザーストーンの美術が印象的。鏡面で四方を囲んだ舞台を、ドアや壁面を自在に操って区 切り、登場人物の心理を息苦しくなるほどに濃密に感じさせる空間を演出する。メカニカルな冷ややかさと心理劇の深刻さを表現するセットである。原作の時代 に背景に合わせたフランス18世紀の貴族の衣裳が、心理的な陰翳のコントラストをさらに際立たせる。

全体にベッドシーンの多い構成だが、クーパー扮するヴァルモン子爵は処女のセシルを犯す場面で、ベッドのかなり高い天蓋の上に昇ったりする演出もある。 じつはクーパーは高所恐怖症なのだが、なぜか、『白鳥の湖』でも『オン・ユア・トウズ』でも高い所に昇るシーンから逃れられないのだそうだ。閑話休題。
  ヴァルモンはメルトイユ公爵夫人に唆されて、貞淑なトールヴェル夫人も誘惑する。しかし結局、ヴァルモンは彼女を本気で愛してしまう。メルトイユたちが支 配する世界に没入しているヴァルモンは、処女のあどけなさや貞淑な夫人などにかえって欺瞞を感じてしまうのである。欲望に忠実な自身のアイディンティイを 確かめるかのように、彼女たちに挑む。ところがその結果、貞淑な夫人を愛してしまう、という皮肉の利いたストーリーになっていた。クーパーのキャラクター に合った、彼の得意の役柄である。ラストの、人間の原罪を表すと思われる十字架の形をしたナイフを振るう、激しい争いのシーンには迫力があった。
(1月26日、ゆうぽうと簡易保険ホール)