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関口 紘一 text by Koichi Sekiguchi 
[2004.09.10]

●スターダンサーズ・バレエ、吉田都とテューズリーの『ジゼル』


スターダンサーズ・バレエ団がピーター・ライト版の『ジゼル』を、吉田都のジゼルとロバート・テューズリーのアルブレヒトで上演した。美術・衣裳はピーター・ファーマーである。

ストーリーテリングの名人、ピーター・ライトと幻想的でロマンティックな雰囲気溢れる舞台美術を創る達人、ピーターファーマー、そして正確無比のステッ プとクールな叙情的表現を極めるバレリーナ、吉田都。アルブレヒトはNYCBのプリンシパル、テューズリーだから、今日求めうる最高級の『ジゼル』のひと つ、と言っても過言ではないだろう。

  ピーター・ライト版では、幕開きから身分を隠したアルブレヒトがジゼルへの想いを表現して隠れ家に消え、母ベルタが小屋から出て朝の寒気を感じているとヒ ラリオンが現れる。ヒラリオンは狩りの獲物の野鳥をベルタに贈り、家事を手伝って親密の情を表す。この一連の動きの中に、村娘ジゼルと母とヒラリオンの生 活の一体感と、そこに現れた貴族の青年の別世界への興味をともなった恋心が、さりげなく、スケッチ帖をめくっていくように表現されている。ほとんどの観客 は、このジゼルの物語は知っているのだが、ファーマーの柔らかい朝の光を感じさせる美術と、ライトのぬかりないスムーズな演出によって、肌を通して実感的 にこののっぴきならない悲劇に入っていってしまうのである。

  祭りの女王を祝う踊りは、通常はペザントのパ・ド・ドゥとして踊られるが、ライト版ではパ・ド・シスであり、ジゼルのソロ、さらにアルブレヒトも加わって 収穫の祭りは最高潮となる。そしてこの村の祭りの盛り上がりが、1幕の終りのジゼル狂乱の場の悲劇をいっそう際立たせるのである。

第2幕の都=ジゼルは素晴らしい。ステップがごく自然に流れるように進み、身体全体で繊細な「幽玄」とでも呼びたい、都=ジゼルでなければ表すことので きない情感で舞台に満たす。以前は、テクニックの正確さが彼女の中にかすかに残っていた生硬さのためにサイボーグのように感じられることもあったが、今回 の舞台では、まごうかたなき吉田都の完璧なジゼルであった。日本人バレリーナだけが描くことのできる「繊細で美しいバレエ」を、吉田都が完成しつつある、 私はそう感じたのである。
(8月20日、神奈川県民ホール)