ワールドレポート ~世界のダンス最前線~

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関口 紘一 text by Koichi Sekiguchi 
[2004.06.10]
Dance Cubeもリニューアル3号目デス。お蔭さまで好評をいただいておりますが、編集部としては、いっそうおもしろく、コンビニエンスに使いやすい情報を満載したWeb Magazineにしていきたいと願っています。ご意見ご感想をぜひお寄せください、できるだけ画面に反映させていきたいと思っております。

●楽しくて、やがてさらに楽しかった熊川版『コッペリア』

『コッ ペリア』は最近なかなか人気のある演目となった。パリ・オペラ座のパトリス・バール版、プティのコッペリウスが素晴らしいローラン・プティ版、スターダン サーズ・バレエ団のレパートリーになっているピーター・ライト版、ピエール・ラコットとクロード・ベッシーが演出したパリ・オペラ座バレエ学校版、セルゲ イ・ヴィハレフが舞踊譜に基づいて復元しノボシビルスク・バレエが上演したプティパ版などが、近年は各地でしばしば舞台にあがっている。

熊川哲也版『コッペリア』は、人形を作るための材料を運ぶコッペリウス博士をフランツの友人たちがからかうシーンから始まる。若者たちは、機械仕掛けで なにやら不思議な物を作ろうとしている怪しい老人に興味津々。一方コッペリウス博士は、美しい村娘スワニルダと生き写しの人形を作るために、彼女を採寸し ようとして追い掛け回す。この冒頭の演出は物語全体の構図をうまく表している。特にコッペリウス博士とスワニルダの関係は、プティ版以外ではあまり描かれ ていないが、第二幕で逃げ遅れたスワニルダが博士の製作中の人形コッペリアになりすまし、博士はそれに気付かないのだから、演出のポイントである。

バールやラコット演出のオペラ座のヴァージョンでは、窓辺の美女コッペリアに盛んに関心を示すフランツと、それにやきもちをやくスワニルダの掛け合いの シーンが多い。熊川版のフランツは、鐘の祭りにやってきたジプシー女にチョッカイを出して、スワニルダを怒らせる。でも二人とも村のほかの若者たちと同じ ように、美女が窓辺で読書しているコッペリウス博士の怪しい家に、打ち消しがたい興味をもっていた。で、はしごを持ってコッペリウス家に侵入しようとする フランツ。このシーンでダンサー熊川は、新しいコミカルなキャラクターを見せて大いに受けた。Kバレエの次の幕ものは『リーズの結婚』か、と一瞬思わせた くらい。

第一幕では、祭りの前の若者たちのウキウキするような気持ちが、ダンスによって軽快に描かれた。
第二幕。友だちと怪しい家に侵入したがコッペリウスが戻ってきて逃げ遅れ、博士が精魂込めて作ったコッペリアになりすましたスワニルダ。それとは知らな い博士は彼女にフランツの命を注入する。スワニルダは、大好きなフランツの命を入れられてとっても喜ぶ。他のヴァージョンでは、コッペリウス博士が少女の 元気をもてあます<老いの哀感>にポイントを置いて演出しているため、このスワニルダの素直な気持ちが案外見逃されている。コッペリウスとスワニルダの関 係を第一幕で描いた熊川演出がここで生きている。この解釈のほうがコッペリウスの哀しみは深い。博士は自分が憧れている少女に、彼女の大好きな男の命を注 ぎ込んでしまうのだから。

第三幕は素晴らしかった。スワニルダとフランツのスローな踊りから始まって、康村和恵がしっとりと敬虔な雰囲気を醸して踊った「祈り」、長田佳世が正確 にしっかりと踊った「ブライドメイド」、「仕事の踊り」、「時の踊り」、ヴァリエーションとテンポアップしながら、結婚と祝祭の雰囲気がぐんぐん盛り上 がった。

神戸里奈のスワニルダは愛らしく、終演するともう一回観たくなるような魅力に溢れていた。もちろんコッペリウス博士に扮したキャシディは、終幕直前に窓 から得体の知れない煙りを出したり、カーテンコールではしきりに神戸スワニルダに老いてますます盛んな好奇心を放つなど大活躍だった。コッペリウス=キャ シディならずとも、思わず採寸したくなってしまうくらい女性ダンサーたちは、みんなそれぞれ魅力的。熊川演出は、ともすれば老いの哀感に印象を奪われがち の『コッペリア』の舞台に、若者たちの活き活きとした息吹きを吹き込んだのであった。(5月22日、オーチャ-ドホール)