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関口 紘一 text by Koichi Sekiguchi 
[2004.03. 5]

愛知芸術文化センターのダンス・オペラ
『月に憑かれたピエロ』『悪魔の物語』、「ダンス・クロニクル~それぞれの白鳥」 』

 愛知芸術文化センターが、ストラヴィンスキーの『兵士の物語』に基づく『悪魔の物語』とシェーンベルクの『月に憑かれたピエロ』という、20世紀音楽の代表的作曲家の作品をダンス・オペラとして上演した。

『月に憑かれたピエロ』は、アルベール・ジローの詩に十二音階技法の創始者シェーンベルクが作曲したもの。月に憑かれたピエロを振付け踊るのは上村なお か。ピエロが見た幻想の世界の登場人物を振付け踊るのは平山素子。ソプラノ・語りは荻野砂和子。構成・演出は唐津絵理、指揮は磯部省吾、演奏は名古屋フィ ルハーモニー交響楽団である。月の変容と雲の漂いの中で、ピエロの魂に宿る孤独な哀感がさまざまな幻想を生み、やがて消える。なによりも月とピエロという 絶妙の組み合せが、この作品の美しさを既に保証しているとも言える。上村、平山ともに、この組み合せが醸す美しさと共鳴するダンスであった。

『月に憑かれたピエロ』

『悪魔の物語』

  ストラヴィンスキーの『兵士の物語』は、<踊られ、演じられ、奏でられる『悪魔の物語』> と表題が付され、改変が加えられた作品となった。演出および振付は、香港の振付家ユーリ ・ン、台本と語りに活動弁士の澤登翠が起用され、舞台に大きな印象を与えた。ダンスのソ リストは舞踏家の笠井叡、中国のモダンダンサー、シン・ラン、発条トの振付家でもある白井 剛、地元越智インターナショナル・バレエの御曹子越智友則、新体操の三井太一である。

舞台下手に7名のオーケストラと指揮者、そして弁士。その後方斜めに広がるようにパイプ 椅子が並べられて、十数名の黒いスーツを着たコロス(男性ダンサー)が座る。冒頭は、ヴァイオ リンを抱えた若者(兵士)がコロスの席から、悪魔に躙リ寄り、悪魔の声の語りが入る。たちま ち観客のこころを掴んだ秀逸な演出だった。悪魔に扮したのは笠井叡。その他のソリストたち は、兵士をさまざまの面を描く役割。

黒いスーツのコロスは、小学生の遊戯のような単純な振りで不思議な効果をあげ、シン・ラ ンがバネの効いた抜群の運動能力を見せる。ヴァイオリン役の白井剛が柔らかい魅力を発揮し、 越智は軽快なステップを踏む。笠井の悪魔は、オーバーに動いて見事な表現を見せる。そして悪 魔と兵士は、欲望をめぐって駆け引きを繰り広げる。結局、お金か、カンフォタブルな結婚か、 あるいは故郷へ回帰する充足か。ひとつが満たされれば次へと欲望のサイクルは際限がないのだろうか。

  ユーリ・ンの演出・振付は、そうした現代の欲望を解析し、ダンスの 中にデザインして表現する。物語、寓意、ポストモダンの発想などを整理して、語りと音楽とダン スを融合し、たいへん興味深い舞台を創った。 (2月22日、知立文化会館)
  あいちダンス・フェスティバル「ダンス・クロニクル(舞踊年代記)~それぞれの白鳥~」は、 3部構成である。第1部は「バレエの確立」としてロマンティック・バレエの作品を名古屋のバレ エ団が踊った。つぎは特別プログラム「ダンス・オペラの誕生」で前述した『悪魔の物語』、 第2部は、「バレエの革命」としてバレエ・リュスからコンテンポラリー作品までが、地元のバ レエ団と上野水香、逸見智彦の牧阿佐美バレエ団組によって踊られた。

  それぞれに力の入った舞台で、名古屋のバレエ団の水準の高さを印象付けた。とりわけ、塚 本洋子バレエ団の『レ・シルフィード』は整然と美しく構成されていてバレリーナも魅力的 だった。松本道子バレエ団の『ダッタン人の踊り』は活気あふれる舞台を見事に踊り切った 。島崎徹振付の松岡玲子バレエ団の『SWANS』は、美しく可愛らしい白鳥が生命の神秘を感じさせ る動きをみせ、たいへんおもしろかった。いずれも、「芸どころ」といわれる名古屋の充実した 舞踊公演であった。 (2月28日、愛知芸術劇場大ホール) 。

 

『ダンスクロニエル』 より
「レ・シルフィード」