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佐々木 三重子 text by Mieko Sasaki 
[2011.06.10]

ライトの典雅な『眠れる森の美女』とアシュトンの楽しい『真夏の夜の夢』

Marius Petipa, Peter Wright “The Sleeping Beauty”/ Frederick Ashton “The Dream”“Daphnis and Chloe”: Birmingham Royal Ballet
ピーター・ライト振付(原振付:マリウス・プティパ)『眠れる森の美女』/フレデリック・アシュトン振付『真夏の夜の夢』『ダフニスとクロエ』
英国バーミンガム・ロイヤル・バレエ団

英国バーミンガム・ロイヤル・バレエ団が3年振りに来日した。1995年から芸術監督を務めるデヴィッド・ビントリーは、2010年から新国立劇場バレエ団の芸術監督も兼任している。前回の来演は13年振りだったので、メンバーの交替を含め、大きく変わったという印象を受けたが、今回はそれほどの変化は感じなかった。
プログラムは2種。前芸術監督、ピーター・ライト振付の『眠れる森の美女』と、“バレエのシェイクスピア”とうたわれたフレデリック・アシュトンによる『真夏の夜の夢』と『ダフニスとクロエ』である。
話題は、『眠れる森の美女』のオーロラ姫に英国ロイヤル・バレエ団の人気スター、タマラ・ロホを、『真夏の夜の夢』のタイターニアに英国ロイヤル・バレエ団を昨年退団したばかりの吉田都をゲストに迎えたこと。また、東京公演でロホと吉田の役をダブルキャストで踊る佐久間奈緒と、彼女と長年ペアを組んでいる中国出身のツァオ・チーとの共演も、彼が映画『小さな村の小さなダンサー』で、毛沢東時代にアメリカに亡命した実在の中国人ダンサーを演じて脚光を浴びたことも手伝って、こちらも話題だった。結局、『眠れる森の美女』は佐久間&ツァオ・チーのペアで、『真夏の夜の夢』は吉田が出演した日を観た。

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『眠れる森の美女』
ピーター・ライト版はオーソドックスな作りだが、リラの精をカラボス同様に踊りのないマイム役にしたことや、カラボスを醜い老女とせずに誇り高い貴婦人にしたこと、オーロラ姫が百年の眠りから目覚めた後にフロリムンド王子との愛を確かめるようなパ・ド・ドゥを省かなかったことが特色だろうか。踊りとは別にまず目を奪ったのは、金色を基調とした壮麗な宮殿の装置だった。加えて豪華な衣裳も、カツラともども百年という時代の推移を映し出しており、さすがロイヤルと思わせた(衣裳・装置はフリップ・プラウズ)。金色の紙吹雪がライトを反射しながら降り注いでくる幕切れは、祝祭効果満点だった。

佐久間とツァオ・チーはペアを組んで既に13年になるそうで、さすが息の合った名コンビだった。第1幕での佐久間は初々しく、4人の王子とのやりとりで恥じらいも見せたが、「ローズ・アダージオ」で片足バランスが速やかに決まらなかったのは惜しかった。だが、第2幕では透徹した趣でオーロラの幻影を踊るなど、場面を追う毎に良くなった。ツァオ・チーは、育ちの良い真摯な王子という風で、しなやかな身体を生かした滑らかな身のこなしで印象づけた。第2幕の「目覚めのパ・ド・ドゥ」で、ツァオ・チーは優しく寄り添う佐久間を何度もリフトして喜びを伝えた。このしっとりと抒情的なデュエットと対照的だったのが、結婚式での華やかなグラン・パ・ド・ドゥで、佐久間の軽快な回転やツァオ・チーの小気味よいジャンプが、互いを高揚させるように行き交った。一つ一つのステップを丁寧にこなす二人の姿勢にも好感を持った。

紫のロングドレスのリラの精はジャオ・レイが演じ、黒のロングドレスのカラボスは当初予定されていだ若手に代わり、バレエ・ミストレスのマリオン・テイトが務めた。レイは分かりやすい的確なマイムで優雅に振る舞ったが、まだ若い。舞台を縦横に動き回るテイトの迫力と存在感に押されてしまったのは、仕方なかったかもしれない。興味深かったのは、オーロラの4人の求婚者たちの描写だ。国王やオーロラと向き合っていない時に、相手の袖を引っ張ったり、互いにけん制したり、何かと張り合う様がおかしかった。妖精たちやおとぎ話の主人公を踊ったダンサーたちは、スタイルや技量に少々ばらつきはあったものの、皆、卒なく、楽しそうに踊っていた。(2011年5月21日夜 東京文化会館)

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『真夏の夜の夢』『ダフニスとクロエ』
最初に上演されたのは『ダフニスとクロエ』(1951年初演)。愛し合う山羊飼いのダフニスとクロエに、クロエに横恋慕する牧夫ドルコンやダフニスを誘惑しようとするリュカイオンがからみ、海賊にさらわれたクロエがパンの神の助けによりダフニスと再会するまでを、ラヴェルの音楽にのせて描いた1時間の作品。
ギリシャ神話の神やニンフたちは登場するが、主役の二人や仲間たちは現代の服装なので、神話のイメージは希薄。踊りでは、クロエ(ナターシャ・オートレッド)をめぐる、ダフニス(ジェイミー・ボンド)とドルコン(マシュー・ローレンス)による競い合いが見せ場の一つ。拳を握りしめて威嚇的に身体を上下させ、鋭く跳んで見せたドルコンではなく、肩にのせた羊飼いの杖に腕を掛けて柔らかに回転しジャンプしたダフニスが勝利を収めた。
海賊たちにさらわれたクロエが両手を縛られたまま、右に左に動くことで逃げたい気持ちをこめたソロは哀れを誘ったが、ダフニスと再会してのデュエットでは様々な形のリフトで喜びを伝えた。また、民族舞踊を採り入れたような羊飼いの男女によるおおらかな群舞と、荒々しいジャンプが痛快な海賊たちの群舞が好対照を成していた。ただ、恋人たちを祝して皆で踊るフィナーレの部分は華やかだが、やや冗長に感じられた。ここはもう一つ変化が欲しい気がした。

『真夏の夜の夢』は、シェイクスピアの喜劇をメンデルスゾーンの音楽を用いて約1時間のバレエ作品に凝縮したもの。登場人物を絞り込み、妖精たちの世界と人間の世界を重層的に巧みに交錯させ、それぞれの思いや考えをマイムや踊りで端的に伝えながら、軽快にドラマを紡いでいくアシュトンの手腕はさすがだ。初演は1964年で、こちらのほうが作品としての完成度は高い。
妖精の女王タイターニアを演じた吉田都は、ちょっとした仕草で実に細やかに感情を伝えた。魔法の惚れ薬のせいで、頭をロバに変えられた田舎者ボトムを恋して無邪気に戯れて踊る様や、惚れ薬が効いていた間の奇妙な出来事をジェスチャーで回想する様をユーモラスに演じ、夫である妖精の王オベロンとの仲直りのデュエットではしなやかさを際立たせた。
妖精の王オベロンを演じたセザール・モラレスは、何とも人間味豊かな役作りに思えたが、素早い脚さばきで凛々しく踊った。アレクサンダー・キャンベルは悪戯者パックを等身大で演じ、切れ味の鋭いジャンプを披露。ボトム役のロバート・パーカーは、タイターニアとむつまじく戯れる様や、その時のことをいぶかしく思い出す様を芸達者に演じ、おかしみを誘った。
2組の男女を演じたダンサーも、恋のもつれとそれが目出度く収まるまでを、せりふを語るような踊りと誇張した振りで伝えていた。古典作品と異なり、ダンサーたちはより個性を発揮できたようで、活気づいてみえた。全体にレベルの高い舞台で、観客もダンサーと共に一夜の夢を楽しみ、幸せな気分に浸れた。
(2011年5月27日 東京文化会館)

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photo: Kiyonori Hasegawa
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